レンズ越しの横顔、伝える愛

 年若い女の子としては意外かもしれませんが、写真は撮られるよりも撮るほうがずっと好きで、プライベートではできることならカメラの前に立ちたくないというのが私の正直なところです。おそらく、客観的に自分を見たくないのでしょうね。けれども、愛しい男性になら撮られてもいいかなと最近では思えるようになりました。それはあるとき、お付き合いしていた男性とちょっと海のほうへ遠出をしたときのこと。私が写真を撮られるのがイヤだと知っていたはずの彼が、この日ばかりはこちらにカメラを向けてきたのです。出先でケンカをするのはイヤだったので、私はちょっとふてくされながらも知らないフリをして海を眺めていました。横で、後ろで、正面で、その日は何度カメラのシャッター音が鳴ったことでしょう……。

 それから少し日にちが経って、彼は一冊の小さなアルバムを贈ってくれました。ページはブスッとふてくされたカメラ目線の私から始まって、ちょっと照れくさそうにハニかむ横顔、髪を風になびかせながら砂浜を蹴る後ろ姿。最後のほうはカメラにも慣れてきて、ハジけるような明るい笑顔と蒼い海。「この人といると、自分はこんなにも楽しそうにしているのね」と意外な自分の素顔にちょっと驚きを隠せませんでした。そして、彼が私に向けるアングルに心からの愛情を感じたのです。ファインダーを覗きながら「きれいだよ」と言ってくれていたような気がして。シャッターを押しながら「愛してるよ」とつぶやいてくれていたような気がして……。愛する人をカメラに納めることも愛情表現のひとつなのですね。一般的に男性は思い出として写真をあまり残したがらないようですが、子どもが生まれて家族写真をたくさん撮りだめるようになる世の中の男性は多いことでしょう。かわいい子どもの成長を思い出に残したいと一生懸命にパパ業をがんばる男性もほほえましくて素敵です。けれども、たまにはママとしてではなく、妻として、女としてのパートナーも写真に納めてあげてください。どんなに恥ずかしがっても、愛しい男性が自分にまっすぐ目を向けて、写真で気持ちを表現してくれるのは女性にとってやっぱりうれしいものなのです。それがレンズ越しだとしても。

 不思議なことに、これまで一緒に時間を過ごしてきたお洒落な男性はみな写真を撮るのがとてもお上手でした。もちろん、彼らはプロのフォトグラファーではなくアマチュアです。服の選び方に十人十色のスタイルがあるように、どうも写真の撮り方や切りとり方にもそれぞれ確立されたスタイルがあるようです。そして、服と写真と、両者のスタイルはとても似通うのがおもしろいところ。たとえば、コーディネートにほとんど色味を入れずに服の持つナチュラルな素材感を大切にしていた人は、シンプルなのに品を感じさせる凜とした写真が多かったように思います。”洗練”という言葉が最もよく合うスタイルでした。日本の和の趣を大事にしていた人は、着こなすジャケットやスカーフの色目・柄にどことなく東洋的(オリエンタル)なテイストがあり、写真の切りとり方も空間や配置の”間”を尊重していました。一方で、服のコーディネートが鮮やかで色合わせや素材で季節感を出すのが最高に上手だった人は、やはり写真もディテールにフォーカスし、ヴィヴィッドでコントラストが強かった印象です。装いも写真も、その人の感性や世界観を表現するための大切な手段なのです。

 英国を代表する紳士服ブランドの創業者で「Mr.Classic」と呼ばれるとある英国紳士もご自身の装いと写真とのスタイルが不思議なほどマッチしているように感じます。クラシカルで堅くなりがちなブリティッシュスタイルですが、彼の装いにはどこかまろやかでやさしいものが匂い立っているのです。これは彼の写真にも同じことがいえます。モノクロで映し出された2匹の愛犬マフィンとハリー、おだやかな瞳のサラブレッド、ツイードジャケットを着た笑顔の少年。きっとユーモアとウィットに溢れるやさしい方なのだろうと、写真から撮影者の人柄や感性を感じとる楽しさを教えてくれます。とはいえ、皆が皆、写真がお上手だからといって装いもお洒落かというとどうもそういうわけでもなさそうです。逆もまたしかりかな……。あくまでも、これは私の見解。例外はたくさんあることでしょう。技術的な巧妙さよりも、感性的な表現の豊かさを持ち合わせている男性のほうに私は親しみを感じます。それでいて、写真でまっすぐに愛情表現できる男性はとても素敵ですね。そんなことされたら、私だって惚れなおしてしまいます。いつもは気恥ずかしくて愛を口にはできなくても、まずは写真から少しずつ。たまの休日、カメラを片手にパートナーへ愛を伝えてみてはどうですか?

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
Aya Nakazato Offcial Medium:http://aya-nakazato.com/
Facebook:https://www.facebook.com/aya.nakazato.54
Instagram:http://Instagram.com/il.colore

中里彩

COLUMN ARCHIVES