気遣いは心のゆとりから、愛は気遣いのココロから。

ガッシャーンと、突然何かが落ちて割れる音。
やっと予約が取れた人気店で、ディナーを楽しんでいたときのことでした。お料理を運んでいた大きなトレーを落としてしまったのでしょう。目をやると、まだ新米らしいウェイトレスが今にも泣き出しそうな蒼い顔で、急いで割れた食器の破片を拾っていました。盛り上がっていた会話は途切れ、店内は少しばかりの沈黙。「せっかくの楽しい時間が台無しね」心の中で、ため息をつかずにいられません。おそらく、同席していた男性も同じように思っていたことでしょう。すぐにこちらのテーブルに、マネージャーが丁重に謝りに来ました。私は、ご一緒した男性が何と言うのか、少し心配になっていました。というのは、ここで怒り出してしまったり、あからさまに態度が悪くなる男性を何人か見てきたから。しかし、そんな予想は爽やかにくつがえされました。「大丈夫です。それよりも、破片が危ないのでケガには気をつけてくださいね。」と言って、ニコッと笑顔を返す男性。何かが胸につかえたような暗い気分になっていた私やお店の方々、不意にトレーを落としてしまったウェイトレス、そして男性自身。皆の心に明るい陽が差した気遣いの一言。その男性の格好よさに、惚れ直した瞬間でした。

気遣いが言動や行動から伝わってくる男性は、相手に「自分は大切にされている」という喜びを抱かせます。恋人や家族、友人、その日初めて会った人。老若男女関係なく他人を気遣うことができる男性は、とても素敵です。思いやりがあり、自分より相手の気持ちを尊重できる人。「ありがとう」と誰にでも感謝の心を表現できる人。そのような人と時間を共有するのはとても幸せなことです。このような気遣いの精神は、その人の心のゆとりから生まれるのだと考えます。お年寄りに席を譲らないサラリーマン。ちょっとぶつかっただけで逆ギレする若者。ストレス社会の現代において、心のゆとりがない人があまりにの多いことに虚しさと哀しさを覚えます。その一方で、最近では「マインドフルネス」や「瞑想」が注目されるほど、人々は心のゆとりを求めています。何も、瞑想しましょうと言うわけではありませんが、心のゆとりは日々の生活の中で自分でつくるものです。心のゆとりをもつ男性は「今、目の前の体験に集中できること」をルーティーンに取り入れています。例えば、彼らは靴磨きやシャツのアイロンがけに集中して余計な感情や思考を取り払ったり、家具やクルマのお手入れをしたり、スポーツに熱中したり、休日にそのためだけの時間をつくり、意識的に心のデトックスをしているそうです。また、彼らに共通することは、愛する家族や恋人をとても大切にするということ。心のゆとりを育む最高のエッセンスは、「愛情」であることは言うまでもありません。

気遣いは装いにも表れます。時間を共にする相手や日時、場所にふさわしい、スーツやシャツ、ネクタイの色柄を選び、相手に失礼のない装いができることが、気遣いのできる大人の男性。この気遣いの原点は、19世紀の英国紳士に代表される「ジェントルマンシップ」にあります。礼節を重んじた彼らにとって、相手に失礼のないように、気持ちよく過ごしてもらうために服装にも細やかな気配りをもつことが重要でした。現代にも、このジェントルマンシップは根強く残っています。しかし、現代では服の簡略化がさらに進み、Tシャツとデニムで食事に行けるほどラフになってしまいました。普段はTシャツとデニムだとしても、ここぞという時には相手のためにしっかりとスーツを着てネクタイを締め上げる。さらには、自分ではなく相手のために服を選ぶことに喜びを感じ、その中で個性を表現してファッションを楽しめる。本当に気遣いのできる男性はそれらをスマートにこなしてしまいます。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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