ホーズと男の色気の対極

なかなか機嫌を直さない長雨に心憂いて、久しぶりにある写真集を眺める日がありました。
スタイルをもつ130人の日本人男性を撮りおろしたこの写真集。仕立ての良いジャケットのバストからウエストをなぞる官能的な輪郭線。首筋に吸いつく上襟のノボリ。ヒップから裾まで淀みなく流れ落ちるトラウザーズ。そして、まっすぐこちらを見つめる真摯な表情。大人の男性の本当の”色気”とは何か、初めて教えてくれた一冊です。そのなかに、いつも手を止めてしまう意外な部分に"色気"を感じる男性がいます。
 その写真のなかで、男性は膝を抱えるように足を組んで椅子に腰かけています。綺麗にプレスされた濃紺のトラウザーズのクリース。延長線上に並ぶ同色のホーズ。そしての艶やかに磨かれた黒靴。うっとりと魅入ってしまうこの統一された流線美に、目をやるたびに淡いため息がこぼれそうになります。いつ眺めてみても不思議なことに、足を組む男性の普段は見えないところ「裾口から覗くリブ編みのホーズのスネの部分」に  "色気"を感じてしまうのです。

"ホーズに男の色気を感じる"
 いきなりこんなことを言われたら、ほとんどの男性は「どんなところが??」と疑問をいだいてしまうでしょう。それも、男性が足を組んでいる状態でチラッと見えるホーズです。面白いですよね。あえて男性が隠している靴下の部分なのに、自分でもなぜここに"色気"を感じるのかハッキリとはわかりません。しかし、どんな男性のホーズにも"色気"を感じるのかというと実はそうでもないのです。ドキッと二度見してしまう魅惑のホーズにはいくつかの条件があります。まずはダークカラーのトラウザーズとホーズが同色の無地であること(濃紺ならなおよし)。ホーズが足首回りでもたつかないこと。リブ編みであること(が望ましい)。また、ワンポイントが入っていないもの。つまり、クラシカルなホーズに"色気"を感じるようなのです。"色気"の感じ方は人それぞれですし、このホーズの"色気"についてはかなり個人的な嗜好が影響しています。けれど、どうぞ靴下を購入する際には「こんなところに色気を感じる女の子もいるんだったな」と思い起こしてくださると大変うれしく思います。

"男性の装いの色気には「開放的な色気」と「抑圧的な色気」の2種類がある"
 紳士服に惚れ込み、様々な男性と出会って、これまでぼんやり漠然ととらえていた男性の"色気"について、このように自分なりの定義づけができたのは最近のことです。「開放的な色気」は、字のごとくオープンにありのままに押し出した"色気"のこと。わかりやすく例えると、近年のPITTIでスナップに収められる若いファッショニスタのような装いでしょうか。色柄の明るいカラーコーディネーションに、ノーネクタイや胸元が露わになったシャツ、ボタンを外した袖元、素足にスリッポン。肌の露出が多く、個を主張した着こなしは、外見的でわかりやすい"色気"ですね。しかし、これはあくまで個人的な見解ですが、このラテン的で「開放的な色気」を日本人男性が華麗に醸し出すのは、ほとんどむずかしいのではないかと思います。もし、この「開放的な色気」をいやらしさなく巧みに表現できる男性がいるとすれば、よほどの品格をお持ちの素敵な方なのでしょう。ぜひ一度、酔いしれてみたいと思ってしまいます。

 一方、「抑圧的な色気」は、個を目立たさせない禁欲的でストイックな状態からほろっと溢れでる"色気"のことです。これは、クラシカルな装いに感じることが多いのですが、フォーマルのように使う"色味"が少なくなるほど人物もより厳格な印象になるため、"色気"の度合いも大きくなるように感じています。「抑圧的な色気」を醸しだすのは、やや極端な例えをすると、無地のダークスーツに無地のネクタイ、カフリンクスやホーズ、黒いキャップトゥの靴を合わせた装いでしょうか。抑えつけられた"色気"が服のゆとりからほころんで、香りをまとうように内面から少しだけ溢れだしている。そんな男性が目の前に現れたときにはもう、心が揺らいで到底シラフではいられません。よく一般的に「女の子はネクタイを緩める男性の姿に弱い」といわれますが、すべからく、私もその女の子のうちの1人です。このネクタイを緩める行為は、見方によって「抑圧的な色気」の解放ともとらえられます。疲れて帰ってきた愛しい男性がネクタイを緩めることで解き放つ"色気"に、女の子は本能的に"性"を感じ「癒してあげたい」と愛情を見せるのです。男性の本当の"色気"は、堅く強くまとったスーツという鎧の内面にこそ宿っています。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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