往年のクルマに抱く、恋心

 平成生まれの私ですが、実は紳士服の次に好きなものが”クルマ”であるということ、世の男性にはちょっと意外かもしれませんね。クルマはクルマでも、ヨーロッパの高級車。その中でも特に、往年のクラシックカーには何とも言い表せないロマンを感じて、見ていて飽きることがありません。何より、その意匠が格好いいのです。(われながら、かなりの渋好みですね)街中で輸入車が目の前を通り過ぎると、どこのクルマの何の車種なのかを考えてしまって、わからなければすぐに検索。クラシックカーが走ろうものなら、姿が見えなくなるまで眺め続けてしまうほどです。なぜこのようになったのか、きっかけは学生時代の高級輸入車販売店でのアルバイトでした。そこはクラシックカーこそ扱っていませんでしたが、イタリアのスーパーカーを始めヨーロッパの名だたる超高級車を置く、クルマ好きには有名なお店でした。しかしいつしか店を畳んでしまったようで、残念ながら今はもうありません。今だから言えることですが、よくショールームのクルマのエンジンをかけて遊ばせてもらったり、色々な車種を乗せてもらったりとちょっと異色な経験をさせていただきました。これこそが、私がクルマ好きになった原点です。ちなみに、こちらの社長はクラシコイタリアのスーツに「ボルサリーノ」のハットという、映画「ゴッド・ファーザー」に出てきそうなお洒落な装いで、よく乗っていた白いベントレーの「ミュルザンヌ」がとても絵になる大人の男性でした。

 クルマもスーツも共に20世紀の時代の象徴であったこともあり、往年の名作映画には、クラシックカーに乗るスーツ姿の男性が多く描かれています。これまで私が観てきた映画の中でクラシックカーとスーツが両方とも記憶に残っているものは、ボンドカー「アストン・マーチン DB5」で有名なショーン・コネリー主演『007 ゴールドフィンガー』と「メルセデス・ベンツ 450SL」をオープニングで華麗に乗りこなすリチャード・ギア主演『アメリカン・ジゴロ』の二作です。『007』シリーズは歴代J.ボンドで異なるスーツスタイルが特徴的ですが、初代ジェームズ・ボンドはロンドンのテーラー「アンソニー・シンクレア」で仕立てたスーツを着ています。また、”ソフトスーツ”で1980年代を牽引した「アルマーニ」。その衣装提供を受けた『アメリカン・ジゴロ』では、主人公ジュリアン・ケイのコーディネートがとてもお洒落だと高く評価されました。当時、無名に近かったジョルジオ・アルマーニはこの映画で一躍、世界の一流ファッションデザイナーの仲間入りを果たしたのです。これらは服がお好きな方にも、クラシックカーがお好きな方にも気に入っていただける映画ではないでしょうか。ぜひ一度、ご覧になってみてくださいね。

 「クラシックカーは、とにかく手がかかる乗りものだ」と、既に何台もお持ちの方からお聞きしたことがあります。手がかかるというのは、つまりお金がかかるということですが、それでもその魅力から抜け出せないのだとか。もしもクルマを女性に例えるとしたら、男性とクラシックカーは切っても切り離せない恋人のような関係なものかもしれませんね。エレガントで存在感のあるボディライン、リズミカルな乾いたエンジン音、細くて華奢なハンドル、包み込まれるように柔らかい革のシート。いつ何度見ても、惚れ直してしまうような気品あふれる美しい女性です。さらに古いがゆえに気分屋で、その日によって動いたり動かなかったり、すぐご機嫌をそこねて壊れてみたり。心にも時間にも、もちろん経済的にもゆとりのある大人の男性でないとすぐにフラれてしまうかもしれませんが、やはり手がかかればかかるほど、かわいらしく愛おしく想えてくるようです。恋は盲目といいますが、その小悪魔のような一面に大人の男性はどっぷりハマってしまうのでしょう。かくいう私も、いつかは憧れのクラシックカーを乗りまわしたいと心に秘めております。そのためにもまず、MT車の免許を取らないと……。まだまだ先が長いお話、この恋心だけは忘れずに。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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