粋なオトナのお酒の嗜み

 大人の男性にいちばん最初に教えてもらったもの。それは、”ワインの嗜み方”でした。教えてくれたのは、趣味でソムリエの資格を取ってしまうほどワインを愛していた人。二十歳になりたてのお子ちゃまだった私は、ツンと鼻を突く開けたての香りだけで酔いが回ってしまいそうなほど、ワインに苦手意識がありました。そのような初々しい女の子の味覚にしっかりと基軸をつくるため、彼は「カベルネ・ソーヴィニヨン」という品種のワインの味と香りを1年ほどかけてゆっくりと教えてくれたのでした。おかげで、今やワインは最も愛するお酒の一つです。ワインの酸化が進んで香りや味わいが変化することを”開く”というのだと教えてくれたのも彼でした。「ワインが開いていくように、年を重ねるにつれて花を開いてまろやかになっていく魅力的な大人の女性になりなさい」という彼の言葉。やはり惚れた大人の男性が教えてくれることは素直に聞き入れてしまうものですね。

 ワインデビューと同じ時期に興味をもったお酒が、ウイスキーでした。銀座のとあるBARで初めて口にしたのは、ちょっとマニアックなシングルモルトのスコッチウイスキー。二十歳の女の子が少しだけオトナの女性へ近づいたあの味と香りは、今でも忘れることはありません。ふと目を向けると、お隣りには、グレイフランネルのダブルブレステッドスーツを身にまといシガーを燻らせる初老の男性が一人。反対のお隣りには、カクテルを片手に静かに小説を読みふけるミステリアスな中年の女性が一人。長い一枚板のBARカウンターで、ゆっくりとエンディングに近づいていくそれぞれの一日の物語。飲み干したロックグラスの中で、溶けた丸氷が「カラン」と今日の終わりを告げた……(なんて、ちょっと小説のように。)こんなにも”個”が尊重される空間が成立するのも”オトナによるオトナのための街”ゆえなのかもしれないと妙にナットクした、淡い銀座の夜でした。

 お酒と相性のいい男性の装いといえば、まっ先に思い出すのが”革靴”です。「靴に酒でもかけるのか」とどこからかお言葉が飛んできそうですが、実はそのとおり。正確には、”かける”のではなくて”垂らす”のですが、靴磨きのフィニッシュにお酒を垂らすと仕上がりが艶やかになるのだとか。「パティーヌ」の技術を生み出したことで知られる、有名なフランスのシューズブランドでは、上顧客がお酒を楽しみながら靴を磨くという粋なサロンが開かれるそうです。その靴磨きの最後のハイシャインでは、”辛口の高級シャンパン”をつま先に一滴垂らします。辛口の高級シャンパンをのせることで、靴先に極上の光を宿すようになるのだそうです。日本にもハイシャインの際に”シングルモルトのウイスキー”を垂らす「モルトドレッシング」という靴磨き法を考案したシューズブランドが存在します。事実、度数が高いアルコールは揮発性がよく、水でクリームを伸ばすよりもアルコールを使ったほうが早く水分が抜けるため、クリームを重ねやすいと聞いたことがあります。ただし、糖分が高いお酒はベタついてしまうのでご注意くださいね。ぜひお休みの日に息抜きもかねて、お酒と一緒にちょっと粋なオトナの靴磨きを楽しんでみてはいかがでしょう。革靴も男性も、少量のちょっと強めのお酒は艶やかな魅力を引き立てるためのエッセンスになるのです。とはいえ、”少量”が大切なポイントですので、くれぐれも飲みすぎませぬよう……

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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