柄の巻きモノ、華めく男

 その男性は、ひと言で「華のある人」でした。これまでたった一度だけ、目の前が揺れるような強烈なひと目惚れを経験したことがあります。お相手は、たまたま喫茶店で空間を同じくしただけの見知らぬ大人の男性。何かオーラがあったのでしょう、その男性が店に現れるとその場が急に明るく華やかになって、空気感が変わったのです。私の目はもう彼に釘づけ。普段なら絶対にそんな気は起こらないのですが、このときばかりはどうしても彼のことを知りたいという気持ちを抑えきれず、意を決してアプローチしました。それも声をかけずに、1行のメッセージとメールアドレスを書き留めた手紙を添えて。結果は、なんとか成功。その後、その方とは数年ほどお付き合いしました。もちろん、今ではあんなにアグレッシブな行動はできません・・・。うれしはずかしな甘ずっぱい思い出です。

 誤解なさらないでいただきたいのですが、”華がある”というのは決して”派手”という意味ではありません。人目を引く匂い立つような明るい佇まいがありながら、どこか品格を感じさせる不思議な人なのです。そのような人は決まって装いも小粋なもので、その彼もベーシックな装いに色柄や素材のアクセントを効かせた小物づかいがとても上手でした。特に、花柄やペイズリー柄のシルクストールやスカーフがよく似合う稀有な男性で、「早く彼が巻きモノをしてくれる季節がやって来ないかしら」と楽しみにしていたほど。ちなみに、ここでの花柄はフィレンツェのショップに置いてあるような綺麗なシルクストールをご想像くださいね。これは私の持論なのですが、花柄の巻きモノが似合う日本人男性は本当に珍しいものだと思っています。それこそ「華のある男性」でなければ、たとえ地味な色味の小さい花柄であっても、花のもつ”女性的なイメージ”にお顔や雰囲気が負けてしまうのです。そのような意味では、花柄が似合うのは質実剛健なイメージの男性ではなく、どちらかというと中性的な要素がある男性なのかもしれませんね。

 花柄に抵抗がある方は、まずはペイズリー柄からお試しにあるといいかもしれません。日本では「勾玉文様」とも呼ばれるペイズリー柄。若い方にはゾウリムシやオタマジャクシと言われてしまうこともありますが・・・、実はとてもパワフルでロマン溢れる柄なのです。諸説ありますが、ペイズリー柄の起源はペルシャ(現在のイラン)にあるといわれています。古代のペルシャでナツメヤシや風に揺れる糸杉など”生命の樹”のモチーフとして生まれた植物文様が、様々な文化的接触の中で複雑に変化を遂げ、今の文様に近づいていったのではないかと考えられています。その後、その文様はシルクロードを経由して西へ東へ広まっていき、お隣のインドでは、カシミール地方を代表するカシミール・ショールの伝統文様として使われるようになりました。やがてインドがイギリスの植民地だった19世紀になると、スコットランドのペイズリー市でカシミール・ショールが大量生産されたため、この文様を「ペイズリー」と呼ぶようになったのです。どうでしょう。こうやってルーツを知ると、ちょっと親しみが湧いてより楽しむことができますね。エキゾチックな起源を持つペイズリーは、花柄よりも扱いやすくミステリアスでエレガントな雰囲気を醸し出してくれます。実は、私が最も愛する柄でもあるのです。かわるがわる花々が咲き誇るよろこばしい季節。ぜひこれを機に首もとに春を巻いて、華のある男性をめざしてみてくださいね。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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