男のジャケット、女のハイヒール

 女性としての魅力を引き立たせて自信をつけたいとき。私は決まってハイヒールを履きます。私にとって、ヒールの高さは女としての自信の象徴なのです。女性には「なるほど」とうなずいていただけるかもしれませんが、もしかしたら男性にはイマイチピンと来ないかもしれませんね。よくまわりの男性陣からは、なぜ女性が無理してわざわざ足腰が痛くなるハイヒールを履くのか理解できないという声が聞こえてきます。確かに、ハイヒールは慣れるまでかなり痛い思いをします。かかとのマメなんてしょっちゅうのこと。重心が前にかかるので足の指の付け根は痛くなるし、腰も痛くなります。歩き方によってはヒザにくる人もいるでしょう。細いヒールは道路の溝やマンホールの穴にハマって抜けなくなることもしばしば。それでも、私はハイヒールを履きたい。なぜなら、ハイヒールには魔法のような効果があるからです。まず背伸びをしているように、脚が細く長く見えます。ヒップが持ち上がってキュッと引き締まり、背筋が伸びてバスト位置も上がります。限度はありますが、ヒールが高ければ高いほど、体のラインが美しく見えるのです。ハイヒールの靴に足を入れると、内面的にも不思議と自分にスイッチが入り、気持ちが引き締まるように感じます。いわゆる、”攻め”のモードになるのです。

 あれはいつだったか、夜の青山を歩いていたときのこと。いつもとちょっと違う雰囲気の大人っぽいワンピースに、高くて華奢なハイヒール。寄り添い歩くお相手は、自分とのデートのために私がいつもよりちょっと背伸びしていることを感じとり、どうしてハイヒールを履いて来たのかをちゃんと理解してくれる大人の男性でした。楽しく会話をしながらも、私の足元を気にして歩調を合わせ、ゆっくり歩いてくれているのがわかります。歩きにくそうなところがあれば、「足元、気をつけてね」とさりげないひと言。次の目的地まで、普段なら10分ほど歩けばたどり着く距離でもTAXIをキャッチ。こういう気遣いが女性には心からうれしいものです。一方、私の友人は、恋人とのデートでお気に入りのハイヒールを履いて行ったところ、舗装が整えられていない道でうまく歩けなかったことが相手のシャクに触り、「そんな靴、履いて来るなよ」と冷たいセリフを浴びせられたのだそう。それ以来、彼の前ではハイヒールが履きたくても履けなくなってしまったと悲しげな顔で話してくれました。ヒドイものです。世の中には、そのような無神経な男性もいるのですね。きっとこれをお読みくださっている男性の皆さまなら決してそのようなことは仰らないことでしょうが、愛しい人がハイヒールを履きて来たときには、ぜひお優しい心配りをしてあげてくださいね。

 装いにおいて、女性としての自分をエンパワーしてくれるものの一つがハイヒールだとしたら、男性にとってのそれは一体何なのでしょう。あれこれと考え巡らせてみましたが、男性にとって身につけることでスイッチが入り、気持ちが引き締まるものは”ジャケット”ではないかというのが私なりに行き着いた答えです。普段からスーツは着ない・ジャケットも羽織らないという方でも、ドレスコードが指定されたかしこまった席やビジネスの重要な一面では、まだまだジャケットを着用する機会があるのではないでしょうか。西洋の装いの歴史から、オフィシャルな場でのジャケットの着用は男性特有のルールでもありますね。女性のハイヒールと同じようにジャケットもまた、着ることで背筋が伸び、胸を張りたくなるものです。英国のテーラーの仕立てのように、肩や胸回りが構築的な作りのジャケットであれば、男性としての魅力も引き立ちます。以前、私の前で「スーツは戦闘服だ」と言い切った男性がいました。スーツを着ると自信が湧いてきて、仕事の重圧も乗り越えられるのだと。そのときは釈然としませんでしたが、今ならその言葉の意味もわかる気がします。羽織ることで”攻め”のモードに切り替わるという点では、スーツではなくジャケットだけでも当てはまるのかもしれません。もちろん、これも人それぞれのお考えがあることでしょう。身につけることで自信が湧くもの。できることなら、こればかりは皆さまから直接お聞きしてみたいものです。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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