家事のできる男たち

今や男性の4人に1人が生涯一度も結婚しないと言われる時代、私のまわりにも、30代や40代の独身男性が何人かいる。一人分の食事でも、面倒くさがらずにサクッと自炊していたり、この日は洗濯、この日は掃除と自分の中でルールを決めて、手際良く済ませたりと、どんなに忙しい時でも、なるべく普段のリズムを崩さず、生活を丁寧に扱っている彼らは、隙あらば、すぐに手を抜くものぐさ人間の私にとって、ちょっと眩しい存在だ。

同年代で、結婚している男性の場合はどうか。これもまた、私の身近な人々の話になるが、7:3くらいの割合で「家事」に協力的な人の方が勝っている気がする。幼い子どもの世話をしつつ、仕事で帰りが遅い妻のために、手の込んだ夜食を毎日のように作っているというツワモノの男友達がいる。「無理して作らなくていいからね!」と何度言われても、愛する妻を喜ばせたい一心で、つい作ってしまうのだそうだ。「掃除でも何でも、家のことをやるのは楽しくて」と話す彼だが、専業主夫ではなく、多忙を極める勤め人。家事好きの夫を持ったこの奥さんは、間違いなく幸せ者だと思う。

同じ家事をするなら、彼のように楽しんでできるに越したことはないが、現実は中々そうはいかないもの。なにせ面倒だし、時間もそれなりにかかる。おまけに、後回しにすればするほどツケもついてくるのだが…。“アイロンがけを楽しく”―先日、こんな見出しの新聞記事を目にした。世の中にはすごい人がいるもので、面倒な家事の上位を占めるアイロンがけを、なんとスポーツに発展させた人々がいるという。その名も、「エクストリーム・アイロニング」。断崖絶壁や流氷の上、あるいは、スカイダイビングやジェットスキーの最中など、極限状態の中でアイロンがけをするというイギリス発祥のエクストリーム・スポーツだ。

これまでにも、アンデス山脈にある南米最高峰の山、標高約6960mのアコンカグアをはじめ、キリマンジャロの頂上など、アイロンがけをするには、常軌を逸した環境下で、数々の世界記録が達成されていて、日本では、第一人者で千葉県在住の会社員・松澤等さんが、世界初となる富士山頂でのアイロンがけに成功している。

エクストリーム・アイロニングは、一見、派手なパフォーマンスにも映る。本来、家事であるアイロンがけを、危険な場所で行う必要があるのか? 本当にスポーツと呼べるのか?など、世界でもさまざまな意見が飛び交っているようだが、新聞記事によると、松澤さんの基本は、あくまでも、自宅での毎日のアイロンがけだという。「朝、背筋を伸ばしてやれば、心のシワも取れて気持ちよく出社できる」というコメントを見て、こちらの背筋も伸びた。

家事のできる男は素敵。アイロンがけを朝の日課にしている松澤さんのような男性を動かすのは、きっと、「やらなくてはいけないからやる」という義務感ではなく、「ただ自分がやりたいからやる」というシンプルな気持ち。妻や彼女任せにしているという方、たまにはアイロンがけにチャレンジしてみてはいかがだろう?心のシワが取れるのを実感できる境地にはほど遠いが、私も背筋を伸ばす意識を持つことから始めようと思う。

PROFILEプロフィール

岸 由利子 ー Yuriko Kishi著述家・画家

英国ロンドン・セントラルセントーマーチン美術大学FDM(ファッションデザイン・ウィズ・マーケティング科 学士号<Bachelor of Arts>)卒業。在学中、スーツの聖地・サヴィル・ロウ1番地「ギーブス&ホークス」で日本人女性として、約2年半に渡る異例のテーラリング修行を伝授。帰国後、ブランド「マルコマルカ」を創立し、東京コレクションにて最年少女性デザイナーとしてデビュー。ファッション界で活躍したのち、文筆業に転身。オーダースーツや腕時計などのファッション・芸術・文化などの分野で執筆する。近年の共著に「人を引きよせる天才 田中角栄」「先生が教えてくれなかった 大日本帝国」「武士道の極意に触れる流派から学ぶ日本の礎」(いずれも笠倉出版社)、スイスの高級メンズ腕時計を特集した「腕時計ライフ」(玄光社)などがある。
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岸由利子

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