好きなものを追いかけたり、夢や目標に情熱をそそいだり、若いときはだれしも活発で明日への希望と自信に満ちあふれているもの。その反面、ときにはまわりが見えずにカッとなったり、羽目を外してしまったりするのも若さゆえです。いくつもの試練を乗り越えながら知識と経験をたくわえて成長していくうちに、会社で大きな仕事を任されたり、経営者として社員とその家族を養ったり、家族としてパートナーと人生を共有し、わが子を1人前に育てあげたりと、一人ではなく誰かとともに生きることで責任を背負う機会がやってきます。男性が年を重ねて責任を抱えれば抱えるほど、その背中は大きくたくましく見えてくるから不思議なものです。やがて落ち着いて風格がそなわっていく。そうやって責任を果たしながら、心と時間のゆとりを手に入れた大人の男性はとても魅力的に映りますね。

背負うものの大きさが男を男にする。この言葉にいま最もふさわしい男性は、歌舞伎の名門「成田屋」の市川海老蔵さんではないでしょうか。父として、師として、市川宗家の家長として大きな責任を背負う姿には心うたれるものがあります。舞台の上の精悍な顔つきとはうって変わって、子どもたちの前で見せるとびきりの笑顔。家長や師としての厳しさと父としての愛情や優しさを想わせるまなざし。その姿は実に格好いいのです。若いころはあちらこちらで浮名を流し、血気盛んだったといわれる海老蔵さんがここまで変わったのは、家族や一門、歌舞伎そのものの歴史や伝統を背負う立場になったからなのでしょう。男性は責任を受け止めたときに成長するのです。さらに、父と妻と、最愛の人の突然の死。いずれは受け継ぐことになる、歌舞伎界の頂点「市川團十郎」の名跡。そうしたものが重なったことでより強く深くなった彼の覚悟が風格としてにじみ出て、最近さらに男の魅力を増しているように感じます。

男性が男を深めると、やがて自分の生き方に対するこだわりが強くなっていきます。この内面を”スタイル”としてうまく外見に表現できたとき、そこに大人の男の品格と色気が宿るのです。逆にいうと、いくら外見を作りこんでも中身が伴わなければ、残念ながらそれはその人のスタイルにはなりません。内面がにじみ出てきてこそのスタイルなのです。大切なのは自分や自分をとりまく環境が変わる人生のステップアップの過程で、あわせて外見もアップデートしていくこと。ときにはちょっと背伸びすることでさらなる高みをめざすモチベーションになることもありますが、基本的には内面と外見のバランスが大事だと思います。そしてもう一つ、大切なのは自分のスタイルを探求し続けること。スタイルある男性は年齢や環境によって変化する自分を楽しみつつも、決して軸をブラしません。ちゃんと”自分とはなにか”がわかっているのですね。実際にそうやって年を重ねていった大人の男性には内面、外見ともに素敵な方が多いのです。

さて、寂しくなりますが、連載「私が惚れた”大人”の男」はこれで本当の最後です。私はこれからも品格と色気を醸しだす、スタイルのある大人の男性に惚れつづけていきたいと思います。全17回、お読みくださりありがとうございました。

PROFILEプロフィール

中里 彩 ー Aya Nakazatoテーラーアプレンティス

1992年生まれ。エジプト考古学者を志して、大学では考古学を専攻。一方で、メンズのテーラード服に惚れこみ、在学中から熟練の職人の元でテーラリングを学ぶ。卒業後は、ファッション業界に限らず、複数の事業を展開。縮小していく職人の手仕事を支えたいという強い思いから、現在ブランド・プロダクトのプロデュースを準備中。ファッションスタイリング、執筆活動なども開始。
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中里彩

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