D'URBAN×Forbes JAPAN SPECIAL EVENT 後編 仕事ができる人が知るべき、スーツの境界線

Vol.30 Forbes JAPAN  PHOTO:SEIJI SAWADA , TEXT:YURIKO KISHI


11月30日(金)にD’URBAN KITTE丸の内店で開催されたForbes JAPAN谷本有香副編集長とファッションディレクター森岡弘氏によるトークセッション。「服を着こなせない男性は、仕事ができない」と思われるふしがある今の時代において、仕事ができる人、仕事に対する意識が高い人に見せるための近道は、男を一番“格上げ”してくれるスーツのルールを知ること。自分の職種を踏まえて、「どう見られたいのか」を明確にしてからスーツを選ぶこと。前半では、高みを目指すビジネスパーソンにとってすぐにでも役立つアドバイスの数々が飛び出た。後半では、名だたる世界のトップリーダーに接してきた谷本副編集長ならではこその鋭い視点から投げかけられる質問と、豊富な経験・知識、そして類まれなる審美眼に裏打ちされた森岡氏によるファッションアドバイスがさらにヒートアップした。

“スーツを着る意味”を今一度、自分に問うてみる


谷本有香副編集長(以下、谷本副編集長):スーツを選ぶ時にお洒落に見せたい、カッコよく見せたいという気持ちが先行することってあると思うのですが、森岡さんのお話を伺っていると大事なのはそういったことではない気がします。

森岡弘氏(以下、森岡氏):これは本当に多い間違いなんですけど、スーツを着る意味をご自分の中で問いただしてみてください。仕事着として着るのか、遊び着として着るのか。おそらくほとんどの方は仕事着ですよね。だとしたら、センスのいい人で十分で、お洒落に見られる必要はないと思います。最近、くるぶしが見える短めの丈のパンツや、お尻が半分見えるほど短い着丈のジャケットがファッショントレンドのひとつになっていますが、カッコよく見えても、仕事ができる男性にはまず見えません。仕事着として着るのであれば、あまりおすすめはしないですね。

谷本副編集長:海外のトップリーダーの方が、よくこんな風におっしゃいます。「日本の若手のリーダーは皆、カッコよくてお洒落。ただ、お洒落すぎてリーダーとしての威厳が感じられない」と。お洒落も行き過ぎてしまうと、リーダーとして、またビジネスパーソンとして信用されることとはおそらくかけ離れてしまうということなのでしょうね。

森岡氏:100点満点の着こなしは、できれば避けていただきたいと思います。あれもこれもと足し算をしていくと、どうしても足しすぎちゃうんですよ。その逆に、100点満点の着こなしが分かっていながら、TPOに応じて90点、80点になるように引き算のできる人は、収まりがいいです。「これはちょっとやりすぎだから外しておこう」と全体のバランスを見ながら、引いて着地点を探していく。そのあたりの加減を取っていかないと、仕事着としてスーツを着こなすのは難しいかもしれません。

色、柄、ストライプの幅。ディテールが持つ意味を知り、使い分ける


谷本副編集長:もうひとつ、世界のトップリーダーの方たちがおっしゃっていたのが、リーダー学としてのスーツの着こなしやファッションの講座を受けてきたということです。男性、女性を問わず、こういった場ではこんな着こなしをしようとか、色々と伝承されているものがあると聞きます。おそらく日本のリーダーでこうした教育を受けている人は少ないと思うのですが、プレゼンや交渉に行く時など、オケージョン別の着こなしのポイントってありますか?

森岡氏:一番分かりやすいのは、謝罪会見のようなお詫びのシチュエーションです。この場合、濃いめのネイビーの無地のスーツがベスト。シャツは白無地のレギュラーカラー、ネクタイはスーツの色に合わせた無地系が好ましいです。シャツ、ネクタイともに柄物は避けた方がいいですが、柄が小さくかつピッチの狭いピンドットのネクタイなどであれば許容範囲だと思います。結び目はきちっときれいに締める。余計なことはしないで、チーフもなし。誰が見てもきちんと見える最大公約数を取ることをおすすめします。

森岡氏:“プレゼンをする時は、赤系のパワータイ”とよく言われますよね。間違ってはいないと思いますが、僕はあまりおすすめしません。ほとんどの方が知っていることなので、作為的に見えてしまうからです。とはいえ、印象に残る着こなしは重要ですから、ちょっとスタイリッシュに見せたいなら、細めのストライプ柄のネイビースーツはおすすめです。グレーでもいいですし、少し柔らかさを出すなら、サックスのような薄い色でもいいと思います。ネクタイは発色のいいものよりは、赤色に墨が3、4滴落ちて濁ったようなボルドー色や小紋柄などの方が落ち着いて見えます。印象のコントロールは色づかいの問題になるので、ベストな着こなしってご提案できないんですけど、フランクな感じでいくならジャケットスタイルでもいいと思います。その度合いにも依りますが、いつもとは違うその人らしさが見えますので。

いずれにしても、ストライプの幅は太くなるとカジュアル、細くなるとドレッシー、柄は大きくなるとカジュアル、狭くなるとドレッシーな印象になるので、そのあたりをうまくハンドリングできれば、適切なシーンに合わせられると思います。

オーダースーツを作るなら、“美しき着地点”を目指せ


近年は俳優やミュージシャン、文化人のみならず、企業のトップや政治家などへのファッションアドバイスも行っている森岡氏。トークセッションの冒頭、「例えば、ここにいらっしゃる来場者の方が、“私のコーディネートを手伝ってください”とお願いしたとしたら、そういったことにも対応されるのですか?」と谷本副編集長が聞くと、「もちろん喜んで。今日は無料ですので、どんどん聞いてくださいね(笑)」と答え、会場の笑いを誘った。その効果はてきめんだったようで、終盤のQ&Aコーナーでは、客席から次々と手が挙がり、マイクはバトンのごとく場内を巡った。

「自転車通勤なのでリュックを愛用している。これからの冬の時期、コートを着た時にリュックはふさわしいのか?」、「入社して数年経つが、顔のせいなのか、いつも新入社員に間違われてしまう。服装の面でアドバイスが欲しい」など、リアルに基づいたさまざまな質問が飛び交った。ある女性の方からは、「オーダースーツを作る時のフィッティングのポイントについて教えて欲しい」という声が挙がった。

これに対し、「一番大切なのは、シャープに見えること。ジャケットはタイトすぎず、パンツも太すぎず細すぎずというのが、スーツの美しい着地点でしょうね。前身頃の第一ボタンを留めた時、胸に大きなバツ印が入るくらいのフィッティングが正しいと言う方がいますが、仕事着として着るならまず避けた方がいいですね。むしろタイトはだめだと思っておいてください。若い子だけの特権であると(笑)。シワが寄らず、ほど良い落ち感がある。そういうフィット感が大切です」と森岡氏は回答。

トークセッション終了後は、フリースタイル。ケータリングやシャンパンが振る舞われる中、店内は活気に満ちあふれた。谷本副編集長と森岡氏に自発的にアプローチしてアドバイスを求める人も多く、「世界のトップリーダー達に学ぶスーツの着こなし術」という今回のテーマにもあるように、意識の高い参加者が多い印象だった。

日本ではスーツをオーダーで誂える女性はまだまだ少ないのが現状だが、先に述べたような質問が女性のビジネスパーソンから挙がることは、オーダースーツが女性の間でも新たなスタンダードになり得ることをほのかに予感させる。

「フィッティングルームでは、ここはこうしたほうがいいとか、丁寧な案内を受けましたが、それは生まれて初めての経験。目から鱗が落ちるようでした。今まで自分がいかに合わないスーツを着ていたか、実感しました」。谷本副編集長がダーバンで誂えた自身のオーダースーツについて語ったように、その良さを実感できる機会が身近にあれば、男性のみならず、多くの女性にも求められることになるだろう。


谷本有香 Forbes JAPAN副編集長 チーフイベントプロデューサー 経済ジャーナリスト

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。トニー・ブレア(元英首相)、ハワード・シュルツ(スターバックス元会長兼CEO)をはじめ3000人を超える世界のVIPにインタビューした実績を持つ。2016年2月よりForbes JAPAN副編集長 兼WEB編集長。同年4月より跡見学園女子大学兼任講師に就任。ロイヤルハウジング株式会社上席執行役員も務める。

森岡弘 ファッションディレクター

1958年、大阪府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社後、男性ファッション誌「MEN’S CLUB」にてエディターとして活躍後、独立。1996年に株式会社グローブを設立し、ファッションを中心に活動の幅を広げ、現在は俳優やミュージシャン、アスリート、文化人などのスタイリングを行う他、イベントやショップのコスチューム、企業のユニフォームデザインなども手掛けている。


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