トラディショナルのエッセンス

Vol.03 松本知彦 TOMOHIKO MATSUMOTO 株式会社dig代表・クリエイティブディレクター PHOTO:KEITA NAKADA(LOKI)、TEXT:HIROMI HARA


スペシャルインタビュー第二弾は、デザインやプランニングを通して、企業の魅力作りを行うクリエイティブカンパニー『dig-ディグ』の代表・松本知彦氏。今回は自身も出演する写真集『JAPANESE DANDY-ジャパニーズダンディ』のプロデューサー・河合正人氏との対談が実現。テーラードスタイルについて、大いに語ってもらった。

01.英国スーツにはロマンが詰まっている。


ー まずは2人の出会いを教えてください。

松本 某百貨店の周年イベントのときですよね?

河合 上顧客だけを招くイベントです(笑)。『ジャパニーズダンディ』の制作をしていたときで、出演していただける方を探していたんですよ。そこで偶然お見かけして。たしか、特徴のあるペーズリーのネクタイをされていましたよね? 全体の雰囲気が良くて、非常にインパクトがあったので、すぐにお声がけさせていただきました。

松本 制作中のファイルを見せていただいたのですが、名立たる方々ばかりで。。正直こんなところに僕が出ていいの? と思いました(笑)。

ー ところで松本さんは普段どんなお仕事をされているんですか?

松本 digという会社を経営しておりまして、企業のブランディング全般をやらせていただいています。業務はデザインが主体になっていますが、企業の魅力を作る活動として、WEBサイトの構築やシステム開発、印刷物や広告物の制作をトータルで行っています。

ー 本日のスタイリングについて教えてください。

河合 今日着ているスーツは、生地が『ドーメル』の"スポテックスヴィンテージ"です。

松本 いいですね~。スポテックスは、世界で初めて生地にメーカー名を表記するタグを入れたんですよね。

河合 そうですね。僕は生地に惹かれてスーツを買うことが多いんですよ。都会的な雰囲気のハウンドトゥース柄が気に入っています。

松本 僕は色で遊んだコーディネートが好きなので、今日はブルーをベースにまとめました。なかでも、ハリスツイードのジャケットが気に入っています。英国の生地ですけど、仕立てはイタリアのものですね。ライナーがなくて、少しゴワゴワした着心地なんです。軽めのジャケットが主流になっている今の時代にはマッチしないかもしれませんけど、なんというか味があっていいんですよね(笑)。

河合 僕も某雑誌の企画したヘビーウェイトのハリスツウィードを着ていますが、仕立てがよくてね。なんというか、あの重さが安心感を生むんですよね。

松本 そうなんです! 僕、英国に対するロマンみたいなものを持っていて(笑)。正直、英国のスーツは、目が詰まっていて着づらいものも多いですけど、やっぱりロマンで着たくなるんですよ。本気でやったら、コンケーブショルダーのジャケットをがっちり着なきゃいけないですけどね(笑)。

02.テーラードのルーツは、古着のジャケット。


ー テーラードスタイルのルーツを教えてください。

松本 テーラードのルーツは高校生のときにアイビーに触れたこと、あとは古着ですね。僕が学生の頃は、DCブーム真っ只中で、『二コル』や『メンズビギ』が流行っていたんですよ。でも僕は古着が好きで、ヴィンテージの洋服ばかり着ていましたね。よく『赤富士』や『パナマボーイ』に通って、ヴィンテージのジャケットをたくさん買いました。僕、昔リリー・フランキーと一緒にバンドをやっていたんです。4人編成のバンドで、僕がドラムで、彼はボーカル&ギターでした。そのときに、バンドのユニフォームが必要だよねって話になり、僕が持っている色違いの古着のジャケットを他のメンバーに着せたり、古着のジャケットを買ってきて、みんなでお揃いで着たりしていました。クレイジーキャッツのように赤いジャケットに白いパンツを合わせたりもして(笑)。

ー その頃から英国は意識されていたんですか?

松本 いえいえ(笑)。USもUKも関係なく、とにかく格好良ければいいという考えでした。DC全盛期でしたけど、古着より格好いいと思える服があまりなくて。ただ、英国のカウンターカルチャーが好きで、モッズとかイギリス寄りの格好をしていた友達が周りにたくさんいました。当時出回っていた古着は、ほとんどがUSもののジャケットで、アイビー系のボックスシルエット。でも1960年代のイギリスの若者もアメリカに憧れて、イギリス的解釈のアメリカンアイビーだったわけですから。今の時代、イギリスが大好きっていう人はあまりいないかもしれないですけど、当時僕の周りにはそういう人たちが多くて、ファッションも音楽もアートも英国ものが流行っていたんですよ。

河合 なるほど。僕は古着は通らなかったんですよ。僕が高校生くらいのときはアイビーの全盛が過ぎていて、テレビドラマの『傷だらけの天使』が流行っていた。その中で萩原健一さんが着用していた『メンズビギ』の洋服を真似て着たりしていましたね。それから大学を卒業して花屋になるんですけど、『J.M.ウエストン』のローファーを履いてヨーロピアンな格好をしていた時代もありましたよ。

松本 Facebookに上げてましたよね。僕も河合さんとお揃いのローファーを持ってますよ。昔フレンチブームがきたときに、ウエストンには憧れていましたからね。

03.トラッドが変容した着こなしを意識している。


ー 2人ともさまざまな遍歴をお持ちなんですね。

松本 そうですね。僕の根底にあるのは1960年代のイギリスへの憧れと、オールドイングランドを代表とするフレンチトラッドなんですけど、昔から“トラッドが変容したスタイル”が好きで、いろんな格好をしてきました。全身をひとつのテーマでまとめるのではなく、あくまでトラッドをベースにした、自分らしい着こなしを意識していますね。

河合 僕らの世代はトラッドがベースにあるんですよね。僕は“洋服とはこう着るべき”だと『VAN』に教わりましたから。でも、それがあるから最低限人前に出て恥ずかしくない装いを覚えることができたんですよ。今の若い方はより自由になっているけど、組み合わせがおかしかったり、それって綺麗じゃないよね? という格好を人前で平気でやってしまう。夏なのにムートンのブーツを履いたり、冬なのにパナマハットを被ったりね(笑)。テーラードの場合は、素材(色や質感)の組み合わせでコーディネートしますけど、人間が心地良いと思う組み合わせは、そう多くはないですし、限定されてきます。その基本(トラッド)がベースにある人とない人だと、着こなしがだいぶ変わってくると思うんですよ。正直、今の若い方からしたら、僕らなんて型にハマっていますし、ふり幅が少ないので、おもしろくないと言われてしまうかもしれません。でも、だからこそ惑わされることなくずっと続いている。まあ、僕が今の時代に生まれたら「あのおじさん変な格好だな」って言ってるかもしれませんが(笑)。

PROFILE プロフィール

PROFILEプロフィール

松本知彦 ー TOMOHIKO MATSUMOTO株式会社dig代表・クリエイティブディレクター

1963年、東京都・新宿生まれ。株式会社dig代表・クリエイティブディレクター。1986年、武蔵野美術大学造形学部卒業後、大日本印刷株式会社に入社。1997年、大日本印刷株式会社を退社。同年、株式会社digを設立。企業のブランドコンサルティングを中心に、WEBサイトの構築やシステム開発、紙媒体の制作などを行っている。
Official Site:http://www.dig.co.jp/

GUEST対談ゲスト

河合正人 ー Masato Kawai

1958年、京都生まれ。フラワーコーディネーター、ファッションプロデューサー。1986年、河合正人花事務所を設立。広告、雑誌、イベントでの制作を中心に活動。フラワーコーディネートで農林大臣賞を受賞、その他受賞歴多数。1994年、写真集『FLOWERS』を出版。2012年に、大川直人氏と2冊目となる『FLOWERS』を出版。

河合正人氏がプロデュース&ディレクションを務める
『JAPANESE DANDY』写真 大川直人
「第46回講談社文化出版賞」にノミネート。10代~90代まで、第一線で活躍している日本人、時代をつくった男たち、130人の男の肖像を撮り下ろし。写真で語る、魅せる男の「ダンディズム」。テーラードスタイル好きの女性も必見!
Official Sitehttp://japanesedandy.com/


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