端正なルックスと独特なムード テーラードで醸し出す

Vol.08 青野賢一 KENICHI AONO ビームス創造研究所クリエイティブディレクター PHOTO:NAOAKI WATANABE(depo)、TEXT:HIROMI HARA(dig)


セレクトショップ『ビームス』の販売職・プレス職を経て、現在は「ビームス創造研究所」のクリエイティブディレクターとして活躍する青野賢一氏。執筆活動やDJ活動、展示の企画運営など、多彩な才能を持つ同氏ならではの観点から、モノの選び方やテーラードスタイルについて語ってもらった。

01.写真集から感じるテーラードの可能性。


ー 河合さんに質問です。写真集『ジャパニーズダンディ』は、個性豊かな人選が大きな魅力だと思います。その中で青野さんを選出した理由を教えてください。

河合 やはりアパレルのお仕事と並行して音楽(ビームス レコーズ、DJ等)のお仕事もされているので、どんなスタイリングで撮影に臨んでくれるんだろう? 撮影したらどのように写るんだろう? と個人的に興味がありました。洋服にシフトした人選と、人物にシフトした人選があるとすれば青野さんは前者ですね。

ー 青野さんは『ジャパニーズダンディ』をご覧になっていかがでしたか?

青野 率直にとても男前な写真集だなと思いました。時代のムードとも合っていますよね。あと、この写真集からテーラードの可能性みたいなものを感じました。スーツの着方というのは、きちんと着るだけではなく、例えばネクタイをせずにリネンのクルーネックを合わせてみたり、足元に白いスニーカーを合わせてみたり、少し違った見方でテーラードを見つめるきっかけになったのではと思います。

ー この写真集に登場する方々は、スーツをユニフォーム(仕事着)として着ているのではなく、スーツを楽しんでいる方々ですよね。

河合 一度「スーツは仕事で着るもの」という思考を止めてみるといいと思いますよ。日曜日にジャケットを着るならどんなスタイリングにしよう? とかスーツを遊びにどうやって使おう? とかね。この写真集を見て、スーツの楽しみ方を少しでも見出してもらえたらうれしいですね。

青野 僕は普通の服で凄みがあるものに憧れるんですよ。その人がどこかお店や空間に入った瞬間に「この人、何者なんだ?」っていう感じです。とりわけテーラードのスーツほど強く思いますね。上手く言えないんですけど、一瞬で空気が変わると言いますか。袖のボタンの色を変えるとか表層的な自己主張にはまったく興味がないんです(笑)。そうではなくて、吊るしのスーツを着ていても「あの人が着るとなんかムードあるよね」みたいな感覚が好きですね。

河合 それはテーラード好きにとって究極のスタイルですね!

ー そこに近づくにはどうしたらいいんでしょうか(笑)?

青野 たくさん着て場数を踏むしかないですよね。あとはそれを着てどこに行くかです。カジュアルでもテーラードでも、ファッションって違和感であったり、ギャップを楽しむことでもありますから。その場合、何とのギャップを楽しむかがすごく重要で、例えば一昔前だったらタキシードジャケットにジーンズを合わせることがギャップだったのかもしれないですけど、そういったスタイルが増えるほど、その着こなしそのものが価値を生まない=ギャップを生まないってことになりますよね。佇まいとしてスーツを端正に着ながら、行く場所によって意識を変えることは大切な気がします。

河合 スーツのデザイン自体はあまり変わらないですしね。シングル・ダブル、襟が広い・細い、丈が長い・短いとかそれぐらいのレベルでしょ。そんな中でも微妙な差異を自分なりに楽しんで、周囲とどこか違うっていう感じを醸し出せるのが高度な遊び方だと思います。

青野 所作も重要ですよね。例えば食事をするときに正面を向いて食事ができない方が多い気がします。斜めを向いて肘をついて食事をしている(笑)。いくらキレイなスーツを着ていてもそれでは台無しになってしまいますよね……。そういうの見てしまうとがっかりすると言うか、もったいないなあと思いますね。洋服だけじゃ何も語れないので。

02.60年代の仏映画から影響を受けた。


青野 河合さんは着こなしの参考にしていることってありますか?

河合 参考というか意識をせずに自然に自分の中に入ってくることってあるじゃないですか? 若い頃に感じたことだったり。僕の場合、それが映画なんですよね。とくに昔見たヨーロッパの映画ですかね。

青野 映画だと何が好きですか?

河合 イタリア系の洒脱な映画ですかね。例えばマストロヤンニが出演している作品だったり、アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」などでしょうね。

青野 「太陽がいっぱい」で、アラン・ドロン扮するトム・リプリーがフィリップ(モーリス・ロネ)を殺して彼になりすますためにサインの練習をするじゃないですか? 練習をはじめてだんだん自信が付いてくると服の着こなしはもちろん、所作から何からどんどん格好よくなっていくんですよね!

河合 なるほど。劇中の演出でやっているんですね。青野さんは映画の中の着こなしに影響を受けたりしましたか?

青野 テーラードを着るときは、フレンチ60sスタイルに限るって感じですね。意識はしてないんですけど、そういうアイテムしか持ってないんですよ(笑)。「鬼火」のモーリス・ロネとか、着こなしは明らかに地味なんですけど、最高に格好いいと思います。

河合 モーリス・ロネにしても、アラン・ドロンにしても、普通に服を着ているだけなのに格好いいんですよね。

青野 そうなんですよ。何の変哲もない白のワイドカラーシャツに黒のニットタイを普通に合わせているだけなんですよ(笑)。

03.洋服は端正に着たい。


ー 青野さんは、自分の中で決めた着こなしのルールやこだわりみたいなものはあるんですか?

青野 スーツを着るときは、基本的に地味なモノが多いです(笑)。時代もあって、今は差し色の気分ではなく、同じ色のトーンで合わせることが多いですかね。あちこち直してまで着ようと思ってなくて、最低限の直しでいい感じに着れるモノが好きですね。

河合 たしかに派手な着こなしはしないイメージですよね。

青野 なんというか洋服は端正に着たいと思っています。僕、極端にカジュアルな格好って基本的にしないんですよ。いわゆるアメリカン・カジュアルのものって昔からあまり買わなかったですし。古着でリーバイスやリーのジーンズを購入しても、日本のデザイナーズブランドと合わせて着るとか、当時日本にお店がなかったポール・スミスなどと合わせて着ていました。あと、個人的にはあまり押しが強いものを良しとしていないんですよ(笑)。なんかマイルドな雰囲気の方が好きなんですよね。

河合 若いうちは背伸び感が出ていてもそれはそれで良さになります。でも年齢を重ねてから攻めすぎていると少し見ていて苦しくなってしまいますよね(笑)。なかなか難しいですね"服で目立つ・格好よく見せる"ってことは。

PROFILE プロフィール

PROFILEプロフィール

青野賢一 ー KENICHI AONOビームス創造研究所クリエイティブディレクター

1968年・東京都生まれ。明治学院大学在学中より「インターナショナルギャラリー ビームス」でアルバイトを開始。販売職・プレス職を経て、2010年、個人のソフト力を主に社外のクライアントワークに生かす、社長直轄部門「ビームス創造研究所」発足に際してクリエイティブディレクターとして異動。執筆、選曲、大学や専門学校での講義、他企業のブランドやイベントのディレクションなど、幅広いフィールドにて活動中。また、1999年、音楽部門「ビームスレコーズ」の立ち上げに参加し、現在もディレクターを務めている。現在、『ミセス』『OCEANS』『IN THE CITY』ぐるなびが運営する食のキュレーションサイト『ippin』などに連載を持つ。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。

GUEST対談ゲスト

河合正人 ー Masato Kawai

1958年、京都生まれ。フラワーコーディネーター、ファッションプロデューサー。1986年、河合正人花事務所を設立。広告、雑誌、イベントでの制作を中心に活動。フラワーコーディネートで農林大臣賞を受賞、その他受賞歴多数。1994年、写真集『FLOWERS』を出版。2012年に、大川直人氏と2冊目となる『FLOWERS』を出版。

河合正人氏がプロデュース&ディレクションを務める
『JAPANESE DANDY』写真 大川直人
「第46回講談社文化出版賞」にノミネート。10代~90代まで、第一線で活躍している日本人、時代をつくった男たち、130人の男の肖像を撮り下ろし。写真で語る、魅せる男の「ダンディズム」。テーラードスタイル好きの女性も必見!
Official Sitehttp://japanesedandy.com/


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