刹那的な美しさを追求して お洒落とは不都合を楽しむこと

Vol.10 加賀健二 KENJI KAGA セブンフォールド代表取締役 PHOTO:NAOAKI WATANABE(depo)、TEXT:HIROMI HARA(dig)


フィレンツェの名店『タイ・ユア・タイ』の元代表であり、現在は本物のクラシコ・イタリアを表現する職人たちによるハンドメイドタイブランド『セブンフォールド』を手掛ける加賀健二氏。イタリアでも屈指の存在である同氏と写真集『ジャパニーズダンディ』の仕掛け人・河合正人氏の対談が実現した。

01.自分自身をプロモーションする感覚で楽しむ。


ー 日本とイタリアのテーラーの違いを教えてください。

加賀 イタリア人は技術や作りより、着用したときに格好いいかどうかを重視しますから、基本的に毎回同じものは上がってきません。彼らは感覚で仕立てることが多いので、お客さんからすると、なぜ前回と同じスペックで上がってこないの? なんてことが昔はよくあったみたいですね。着丈が2cm変わってしまうとか(笑)。職人さんに聞いたところで、今日の気分で裁断していると、あっさり言われてしまいますけどね(笑)。

河合 着丈が2cmも変わってしまうのは、恐らく職人さんからしてみたら、今日はこれが格好良いけど、明日はそうは見えないという、素直に自分自身に反応しているんでしょうね。自分の審美眼に自信を持っていて「私が仕立てているんだから格好いいはずだ」ってね。オーダーをする人はそこを踏まえて楽しむことが大切ですよね。

加賀 結局そこなんですよね。感覚的に「まあいいか」と思える人は、オーダーを楽しめると思いますね。

河合 イタリアのようにオーダーする人とオーダーされる人がお互いを気に入り、イーブンな関係でビスポークするっていう感覚は、日本とはまだまだ違うのかなって思いますね。

ー 加賀さんが思うお洒落について教えてください。

加賀 河合さんの前で言うのもあれですけど、今日雨が降っているのにも関わらずコットンのスーツを着られていて、本当に偉いし格好いいと思いますよね。これがお洒落なんですよ。お洒落って“不都合をどう楽しむか”なんです。雨だから手を抜くのではなく、それを踏まえてお洒落をしている希望性を自分なりに見出せるどうかです。あとは、当たり前ですが洋服をきちんと着られているかが重要。例えば、シワになりやすいシルクリネンを美しく着られているか? アイロン掛けされたクリース入りのトラウザーズを履けているか? など、洋服のケアも含めてきちんと着られているかが大切です。いくらいいスーツを着ていても、手入れがされてないと残念ですからね。

ー スーツを上手く着こなすコツを教えてください。

加賀 無地とストライプの使い分けでしょうね。ネイビーの無地やミディアムグレーのストライプを上手く着こなせられるようになればそんなにストレスはないと思います。あとはセンスが乗ってくるだけですからね。仕事着だから着るという考え方ではなく、自分自身をプロモーションする感覚で楽しむことが大事だと思います。

河合 楽しむことは本当に大事なこと。スーツの楽しみ方にもビジネスウェアとしての楽しみ方とオフの楽しみ方の2つがあります。同じ楽しみ方でもオンとオフで少し変わってきますよね。オフの日ならば、シャツの変わりにポロシャツを合わせてラフに着てもいいですしね。少し素材の勉強をしてみるといいですよ。いわゆるオンに向いている素材とオフに向いている素材がありますから。

加賀そうですね。ミニマムな投資でワードローブを着回すテクニックとしては、最低限ドレスシャツとオックスフォードシャツ、ポロシャツの3枚を持っていれば、十分楽しめると思いますよ。

02.父親には多くのことを教わった。


ー 着こなしで影響された人物や映画スターはいらっしゃいますか?

加賀 父親の影響ですが、フランク・シナトラやスティーブ・マックイーンですね。シナトラはロマンチックですよね。フレッド・アステアほど踊れず、決して男前ではないですが、グレーのスーツに黒のナロータイを締めた姿は本当に格好いい。映画『HIGH SOCIETY(上流社会)』は、何回も観ました。マックイーンに関しては、パーフェクトですね。コートは畳んで肩にかけて、ツイードのジャケットと『ブルックスブラザーズ』のシャツを着てね。マックイーンの着こなしは幼少期にとても影響を受けました。

河合 若い頃は心が柔軟だし、吸収能力が高くて、何事も素直に受け入れられるんですよね。それがその人の人生のベースになるわけで。

ー お父様の影響が大きいんですね?

加賀 父親には、映画に連れていってもらったり、洋服を誂えてもらったり、よく男同士で出かけていました。小学校に入学するときに『VAN』に連れていってもらって赤いギンガムチェックのボタンダウンを買ってもらったことをよく覚えています。あと、父親がオーダーした洋服を受け取りに行くときは、必ずと言っていいほど一緒についていってましたね。

河合 貴重な体験だよね。

加賀 車で待っていると、綺麗な女性がケーキを持ってきて僕にくれるわけですよ。誰からもらったかは母親には言えず(笑)。ハイカラな父親だったので、そういうことをいろいろと擦りこまれたというか、社会勉強させてもいましたね。中学になると父親の勧めでサーフィンを始めたんですけど、そこで初めての挫折を味わいました。僕らはまだ中学生なので電車に乗って海に行ってましたが、先輩方は綺麗な女性を車に乗せて来ているわけですよ(笑)。僕らなんて坊主頭の子供なのでまったく相手にしてもらえず、そこで世の中って辛いなあと実感しましたね(笑)。体もペラペラ、波にも乗れない、彼女もいない、ボードも古い、すべてが格好悪くてね。。でも同時にそこから這い上がってやろうというベースも生まれたんですよね(笑)。

河合 なるほど(笑)。海に行っていろいろと思い知ったんですね。

03.ネクタイはスーツとは異なる生き物。


ー ご自身のテーラードスタイルについて教えてください。

加賀 スタイルやディテールでいうと50年代が好きです。ラペル幅の広いものやゴージラインの低いものを選ぶことが多いですね。着丈は普通の基準から2cmくらい短いと思いますよ。ダブル・シングル両方着用しますが、ナローなスーツを着て体のラインを出すというよりは少しゆとりを持たせたサイジングが好きですね。

河合 ジャストフィットよりも少し余裕があるフィッティングということですね。

加賀 はい。あと50歳を過ぎてから無地のスーツを着る回数が増えましたね。

河合 それではなぜですか?

加賀 それまではストライプやチェックといった柄物多用していたんですけど、50歳を過ぎてから無地をきちんと着てみようと思ったんですよね。なんというか、ベーシックな柄や洋服を上手に着こなすことって実は結構難しかったりもして。反対にそれがおもしろかったりもするんです。

河合 わかります。誰もが通る道なんですけど、若い頃はエネルギッシュだからいろんな格好やスタイルにトライしたくなるんですよね。でも50歳くらいになると無地やベーシックなものに回帰して肩の力を抜きたくなるものですよね。

加賀 そういったバイオリズムはありますよね。あと僕らはネクタイを作っていますから、ネクタイを主役にスタイリングを考えることも多いんです。ですから自ずとスーツはベーシックになってくるのかもしれません。ネクタイはスーツとは全く違う生き物ですから、そこを立たせるにはどうしたらいいのかを常に模索していますね。

PROFILE プロフィール

PROFILEプロフィール

加賀健二 ー KENJI KAGAセブンフォールド代表取締役

1964年・大阪生まれ。イタリアで1984年に誕生した老舗セレクトショップ『タイ・ユア・タイ』の代表を経て、現在はセッテピエゲで有名であったフィレンツェの伝統的なハンドメイドタイ工房に日本資本を投じて発足された『セブンフォールド』社の代表取締役を務める。

GUEST対談ゲスト

河合正人 ー Masato Kawai

1958年、京都生まれ。フラワーコーディネーター、ファッションプロデューサー。1986年、河合正人花事務所を設立。広告、雑誌、イベントでの制作を中心に活動。フラワーコーディネートで農林大臣賞を受賞、その他受賞歴多数。1994年、写真集『FLOWERS』を出版。2012年に、大川直人氏と2冊目となる『FLOWERS』を出版。

河合正人氏がプロデュース&ディレクションを務める
『JAPANESE DANDY』写真 大川直人
「第46回講談社文化出版賞」にノミネート。10代~90代まで、第一線で活躍している日本人、時代をつくった男たち、130人の男の肖像を撮り下ろし。写真で語る、魅せる男の「ダンディズム」。テーラードスタイル好きの女性も必見!
Official Sitehttp://japanesedandy.com/


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