時間をかけて育む、手織りならではの優しい風合い

Vol.35 クスカ株式会社  絹織物工房 PHOTO:KEITA NAKADA , TEXT:RIE YOKOYAMA


スーツスタイルの最後の味付けとなる1本のネクタイ。ダーバンのものづくりは、ブランド創設以来、熟練の職人達の愛と誇り、確かな技術によって成り立っている。今年2020年に、創業50周年を迎えることを記念し、希少価値の高いオールハンドメイドの手織りネクタイを発売する。その背景に隠れたこだわりとは―――。西陣の染色職人、丹後の織物職人、京都や十日町の縫製職人。日本各地、長い旅を経て完成する、1本のシルクタイの軌跡を辿る。

01.京丹後の海で育んだ熱き想い


京都駅から電車を乗り継ぐこと、約3時間。日本海側に面し、“海の京都”とも呼ばれる丹後地方。"弁当忘れても、傘忘れるな"の諺が伝わるように、このあたりは非常によく雨が降る。そのため湿気が多く、糸は散らばらず、美しい織物に適しているのだという。

「日本人として、残さなければならないモノがある」
日本三景・天橋立からすぐの田んぼ道に、クスカ株式会社の工房がある。3代目代表の楠泰彦さんは、大学進学とともに上京。建設会社に勤務しながらサーフトリップに明け暮れていたが、実家に帰省した際、職人さんが一越一越丁寧に丹後ちりめんを織る姿に感銘を受け、家業を継ぐ決意をする。着物産業の縮小により状況は厳しかったが、機械織りではなく、あえてコストのかかる手織り一択。絹糸の風合いを生かせるのは、手織りにしかないと実感していたからだ。

02.1日わずか2.3本。希少価値の高いオールハンドメイド


クスカでは、すべての工程を手作業で行う。絹糸の染色、経糸(たていと)を一本一本つなぐ“縦繋ぎ”、ボビンに巻きつける“緯糸(よこいと)の糸繰り”、手織りの作業に、織り上がりの確認まで…ここまで徹底したオールハンドメイドの工房は、世界を見渡してもほぼ見当たらない。しかも使用する織機は、ここにしかないものばかり。他にはない美しいネクタイを生み出すため、木工大工職人と試行錯誤しながら、手織り機にアレンジを加えた。
「機械織りにはない独自の風合いや、質感を追求しています。シルクの光沢や上質さを生かしきれるのは、空気をも一緒に織り込める手織りだけ。絹糸にストレスがかからないからこそ、気品ある艶めきや風格までも醸し出すことができる」

カタンコトン…リズミカルな音が工房に響き渡っている。職人さんが、手織り機と会話するかのように、優しく織り上げていく。まるで鶴の恩返しのような光景。1人が1日に手織り機と向き合えるのは、5.6時間。それ以上になると、体力的に負担が大きく、生地にムラができてしまう。そのため、1日に織れるのは、せいぜい2.3本が限界。気が遠くなるような作業なのだ。

03.老舗ブランドが愛す、
唯一無二のふっくらとした質感


生地が完成すると、“検反(けんたん)”の作業に入る。ルーペで覗き込み、織物に傷やムラがないかを細かくチェックする。アイロンで蒸気をかけたり、ピンセットを使用したりして、生地を整えていく。数ミクロ単位でいびつな箇所はあるが、それはかえって独特な表情や美しさを物語ってくれる。ちなみに、生地の端にできる“耳”が、手織りの証。

手織りによる仕上がりの違いは、何と言っても立体感。糸と糸の間にふんわりと空気が含まれるため、ふっくらとした重厚な質感が漂う。それは、ネクタイを身に付けた時の佇まいに、一層差をもたらしてくれる。銀座和光、ロンドンの王室御用達ブランド、某航空会社、高感度セレクトショップ…世界屈指の名だたるブランドを魅了し続ける理由が、ここにある。


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