AERA STYLE MAGAZINE×D'URBAN SPECIAL TALK SESSION 前編

Vol.27 AERA STYLE MAGAZINE  PHOTO:SEIJI SAWADA , TEXT:YURIKO KISHI


10月26日(金)にD’URBAN KITTE丸の内店にて、AERAスタイルマガジン山本晃弘編集長とダーバン企画商品部ユニットマネージャー志村裕之によるトークセッションが開催された。テーマは「オーダースーツの楽しみ方」。日本の男性ファッション誌を第一線で30年間作り続けてきた山本編集長、かたや18年間メンズブランド一筋でマーチャンダイザーやディストリビューターとして活躍してきた志村裕之。両者が繰り広げるトークには、スーツを愛するビジネスマンに役立つヒントが満載。盛況のうちに幕を下ろした当日のもようを前編・後編の全2回にわたってご紹介する。

男性ファッション誌の雄、“ダーバン愛”を語る


光栄なことに、今回のトークセッションでは、筆者が司会を務めさせていただいた。登壇した山本晃弘編集長(以下、山本編集長)が最初に紹介されたのは、AERAスタイルマガジンの最新号。俳優の田中圭さんが表紙を飾る今号は、人気女性誌などを抜いて、アマゾンのランキングで1位になるなど、男性誌としては異例の売れ行きで好評を博している。

「ご存知の通り、田中圭さんはすごく人気があって、色んな雑誌の表紙を飾っていらっしゃいます。今回、男性誌である弊誌がなぜこれほど好調なのかというと、やはり田中さんのスーツ姿が素敵だからだと思います。カッコいい男性がスーツを着ると、さらに男前が上がりますから」

今号では、D’URBAN KITTE丸の内店が取り上げられているが、AERAスタイルマガジンとダーバンの関係は今に始まったことではない。2008年に創刊したばかりの頃、山本編集長自らが宮崎県日南市北郷町にある「ダーバン宮崎ソーイング」に足を運び、工場をくまなく取材し、誌面上で紹介している。以来、同誌では幾度となくダーバンを取り上げてきた。

「これまでにもさまざまな工場を訪れてきましたが、ダーバン宮崎ソーイングは、他に類を見ない工場です。日本最大級の規模を誇るスーツ工場であり、非常にクオリティの高いスーツを作っていらっしゃいます。驚いたのは、工場内の湿度を常に60%に保っていること。なぜかというと、スーツ地に使われるウールは生き物のように、湿気によって伸びたり縮んだりするからですね。精度を厳格に守りながら、日本でのものづくりに徹する。そうして生み出されるのがダーバンのスーツなんです」

「皆さん、ダーバンって何のことか知っていますか?あちらにお写真がありますけれど、アーバン(都会的)というフランス語を冠した英国の戦艦の名前なんですよ。このことからも分かるように、1970年のブランド創立以来、ダーバンはヨーロッパを源流としたスーツスタイルを日本で作って提案し続けています。2020年に50周年を迎えますが、日本のスーツブランドで50年も続くブランドは他にはありません。インポートのライセンスブランドはいくつかありますが、日本のブランドでこれほど長く続いているブランドはダーバンしかないんです」

序盤から、せきを切ったように“ダーバン愛”を熱く語った山本編集長。早くも熱気を帯びてきた来場客を前に、いよいよトークセッションがスタートした。

仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。


―本日のセッションのテーマは「オーダースーツの楽しみ方」。早速ですが、これまでにどれくらいのオーダースーツを作られてきたのですか?

山本編集長:(来場客に向かって)この中で、オーダースーツを作られた方はいらっしゃいますか?けっこういらっしゃいますね。さすが上級者です。私自身は、もしかすると皆さんに比べたら、作った回数としては多い方ではないと思います。私の考えの中では、男性が一生着る洋服ってそんなに多くはなくて、ネイビー、グレー、ブラウンという男の装いの三原色があれば事足りると思っています。もちろん礼服も含めて黒のスーツも持っていますけれども、たくさんスーツを買う必要はないと。ただ仕事柄、あちらこちらでスーツをオーダーして試して着ることはありますので、ここのスーツは良かったな、あまり良くなかったなとか、そういったことは皆さんより存じ上げているかもしれません。

―初めてオーダースーツを作ったのは何歳の時ですか?

山本編集長:これはですね、もしかしたら皆さんよりも早いかもしれません。5歳の時ですね。うちの親父は消防士だったにもかかわらず、非常にお洒落好きな男で、男性ファッション誌を読んだり、オーダースーツを着て社交ダンスに行ったり、とっぽい帽子をかぶったりしていたんですね。七五三のために、親父が行きつけのテーラーに連れられて作った服が、“マイ・ファースト・スーツ”です。もちろん半ズボンでしたけれど(笑)。

―その時の感想って覚えていらっしゃいますか?

山本編集長:5歳の時の気持ちをそこまで明確に覚えているわけではないんですが、よく申し上げるのは、気持ちがキリッとして背筋が伸びるというか。皆さんも新しいスーツをオーダーしたり、仕立ての良いスーツを着ると背筋が伸びて、「よし、今日も仕事を頑張ろう!」という気持ちになることがあると思うんですけれど、その感覚に似ているような。5歳なので仕事はしていませんでしたが、そういう男らしい気持ちになったと思いますね。

―志村氏はいかがですか?

志村裕之(以下、志村):弊社に入社して間もない22歳の頃に、初めてオーダースーツを作りました。入社以来、2年間ほど店頭スタッフとして働いていたので、戦闘服として、またユニフォームとしてスーツを着ざると得なかったというのと、見ての通り、既製服だとなかなか合うものがない体型なもので、オーダーの方が理にかなっていたといいますか、致し方なくというところからスタートしています。当時は先輩の店長の方に採寸していただいて作りました。以来、今日に至ってメンズブランドを担当させていただいており、シーズンごとに1着か2着は誂えるので、着数はどうしても増えてしまいますね。

―ところで昨今、業界ではオーダースーツが賑わっていますが、オーダースーツの魅力について教えてください。

山本編集長:ここで拙著(※)のタイトルの理由が明かされるわけですけども、皆さん、スーツを着る時に素敵に見える着こなしの秘訣をご存知ですか?
※2018年3月に刊行された山本編集長の近著「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」<クロスメディア・パブリッシング (インプレス)>

山本編集長:すごく簡単なんですよ。ジャストサイズのスーツを着ていることが一番カッコよく見える秘訣です。今日、私が着ているスーツもそうですが、ここで言うジャストサイズとは、普段皆さんが着ていらっしゃる服よりもちょっと小さめのサイズを意味します。

今朝も出勤中に目の当たりにしたのですが、残念ながら、日本のビジネスマンの多くは、大きめのスーツを着ていらっしゃいます。大きめのスーツを着るとどういうことになるかというと、その方がだらしなく見えてしまうわけです。「もしかしたら仕事がゆるいのでは?」という印象を与えてしまうことにも繋がってきます。今一度、ぜひご自身の足元をご覧になってみてください。“クリース”と呼ばれるパンツの折り目は、ジャストサイズだと裾までまっすぐに伸びますが、裾が余っているとねじれて曲がってしまいます。それを見ると、「この人、フットワーク悪そうだな」「大事な書類を忘れたりするのでは?」といった印象を相手に持たれてしまうわけですね。

ジャストサイズの吊るしのスーツを買うのも正解です。先述したように、宮崎県にあるダーバンの工場では、オーダースーツもレディメイドのスーツも同じ工程で作られていますから、クオリティに違いはありません。ただ、より厳格な意味でのジャストサイズで言うと、オーダースーツに軍配が上がります。だからこそ今、オーダースーツに人気が集まっているんだろうなと思います。

志村:やはりお客様のサイズにぴったり仕上げることができるということが、オーダースーツの一番の魅力だと思います。一口にオーダースーツと言っても、パーソナルオーダーからフルオーダーまでさまざまにあります。どちらもお客様のサイズにぴったり仕上がるのですが、何が違うかというと、フルオーダーの場合、そのブランドが持つ独自性が見えづらくなってしまうんですね。

ダーバンで展開しているパーソナルオーダーは、お客様の体型にぴったりに仕上げながらも、パンツの裾や袖丈を少しだけ短めにする、あるいは裏地やボタンを変えてみるなど、お客様の好みを入れつつ、ブランドらしいシルエットを残すというところが特徴です。

山本編集長:パーソナルオーダーやイージーオーダーが、フルオーダーよりも劣っていると思っていらっしゃる方もいるんですけど、志村さんがおっしゃったように、必ずしもフルオーダーが上位概念ではないんです。生地のクオリティを上げていけば、いくらでも良いものができる。これはパーソナルオーダーでもフルオーダーでも同じですが、シルエットについては大きく異なります。

仮にフルオーダーで私の体型にぴったり合ったスーツを作ったとしましょう。おそらくキューピー人形のようなシルエットになります。フルオーダーの場合、体型がカッコわるいと、カッコわるいスーツになるんですよ。それが、ダーバンのパーソナルオーダーで作ると、“この私の体型でも素敵に見えているかもしれない”という感じのスーツに仕上がります(笑)。50年近く日本の男性にスーツを作り続けているダーバンは、日本人男性ならではの体型の特徴やクセなどをデータとして持っていらっしゃるので、非常に素敵なシルエットのスーツを提案されています。

糸から作る日本生まれの高品質、
それがダーバン・プライド


―ダーバンでのスーツオーダーの流れについて教えてください。

志村:ダーバンのパーソナルオーダーは、ウェブサイトからもご注文いただけるのですが、特に初めてオーダースーツを作られるという方は、ぜひショップにお越しいただき、まずはどのようなシーンで着るのか、どんな用途で作るのかといったことをスタッフと話しながら、素材やシルエットを選んでいただくことをお勧めします。一部インポートのものもございますが、ダーバンの素材は、基本的にすべて糸から日本で作っています。これはお客様に誇れるダーバン・プライドのひとつです。

山本編集長:ダーバンが糸や素材を作っているのは、イギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラと並ぶ世界三大生地産地のひとつである愛知県の尾州です。そこでしっかりとディレクションをして作られているんですよね。

志村:はい、毎年、生地の企画は約1年前からスタートしています。今ちょうど、昨年の9月あたりに出した素材がやっと出来上がってきて、これから2019年の秋冬シーズンの企画についてデザイナーの方で検討しているところです。

代表的な素材をひとつだけご紹介させていただきます。(ハンガーにかかったジャケットを見せながら)こちらが、尾州の日本毛織さんとダーバンによるオリジナル開発素材「ZEAL」です。2010年から登場しておりまして、縦横双糸といって、女性の髪を2束に分けて編み込むように、2本の糸を撚り合わせた糸を縦糸、横糸に使っています。いずれも細い番手の糸で仕上げていますので、生地に滑らかさと光沢感が出るのが特徴ですが、特筆すべき点は、双糸使いによって、湿気による伸び縮みなどが起きにくく、物性が安定していることです。

山本編集長:日本毛織さんは、通称・ニッケと言われる、日本を代表する尾州の毛織物メーカーです。「プルミエール・ヴィジョン」というパリで毎年2回開かれる世界でも最高峰の生地の見本市があるんですよ。取材に行ったことがありますが、「突然取材にこられても、困ります!」と言われるくらい、営業のアポイントメントがいっぱい入っていて、世界中がニッケのものづくりに注目しています。

ウール素材は、湿度によっては1.5cmくらい伸びたりするんです。“小さめがジャストサイズ”とか言っている場合じゃなくなりますよね。

志村:はい、冒頭でも山本編集長にご紹介いただいたように、ダーバン宮崎ソーイングではいかに物性を安定させるかということに細心の注意を払っています。ゆえに、工場内の湿度を常に60%に保っているんですね。

インタビューの後半では、山本編集長がダーバンで誂えたオーダースーツのこだわりや、ビジネスのTPOに応じた戦略的なスタイリングなど、さらに多彩なテーマでお届けする。


山本 晃弘 AERAスタイルマガジン編集長

1963年岡山県生まれ。1987年早稲田大学法学部卒業。MEN‘S CLUBやGQ JAPANなどの編集を手掛けたのち、2008年4月に朝日新聞出版の設立に参加。同年11月、編集長としてAERAスタイルマガジンを創刊。ニュース週刊誌AERAの別冊ファッション季刊誌として、ビジネスマンのリアルな声に応える誌面を作り続けている。現在はその見識を活かしたトークイベントやファッション系WEBへのインタビュー出演で、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活躍中。

志村 裕之 ダーバン企画商品部ユニットマネージャー

2000年株式会社ダーバン(現・株式会社レナウン)入社。約2年間の店頭販売を経て、2002年より本社勤務となり、ビジネス、カジュアルブランドのマーチャンダイザーやディストリビューターを担当。入社以来、メンズブランド一筋で、ビジネスのMDは10年の経験を持つ。2013年よりダーバンのMDとなり、2017年より企画商品部ユニットマネージャーを担う。

岸 由利子 (司会)ライター・翻訳家・画家

英国ロンドン・セントラルセントーマーチン美術大学卒業。在学中、スーツの聖地・サヴィル・ロウ1番地「ギーブス&ホークス」で2年半に渡るテーラリング修行を伝授。MALKOMALKAのデザイナーを経て、2008年より執筆業に転身。ファッション、腕時計、医療、福祉、スポーツなどの分野を中心に取材、執筆。画家としては、レストランやバーなどの壁画を中心に活躍。近年はミュージシャンへの衣装デザインやプロダクトデザインも手掛ける。


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