AERA STYLE MAGAZINE×D'URBAN SPECIAL TALK SESSION 後編

Vol.28 AERA STYLE MAGAZINE  PHOTO:SEIJI SAWADA , TEXT:YURIKO KISHI


10月26日(金)にD’URBAN KITTE丸の内店にて、AERAスタイルマガジン山本晃弘編集長とダーバン企画商品部ユニットマネージャー志村裕之によるトークセッションが開催された。テーマは「オーダースーツの楽しみ方」。日本の男性ファッション誌を第一線で30年間作り続けてきた山本編集長、かたや18年間メンズブランド一筋でマーチャンダイザーやディストリビューターとして活躍してきた志村裕之。両者が繰り広げるトークには、スーツを愛するビジネスマンに役立つヒントが満載。後編では、山本編集長がダーバンで誂えたオーダースーツのこだわりやビジネスのTPOに応じた戦略的なスタイリングなどのテーマでお届けする。

茶系のオーダースーツをカッコよく着るカギは、生地の“立体感”


―今日お召しになっているのは、ダーバンのオーダースーツだそうですね。袖を通してみていかがですか?

山本編集長:非常に気に入った一着になりそうです。英国調やクラシック回帰がトレンドであると最近よく言われますが、スーツの歴史をさかのぼると、ワイシャツはもともと下着で、見せない方が上品だということで、着ていたのがベストですね。今回はそのベストを、クラシックな着こなしとしてとりいれました。いわゆるクラシックな英国調スーツの場合、ジャケットの着丈はもう少し長めで、パンツはももにややゆとりがあって、裾に向かってキューッと絞ってあったりします。私は身長があまり高くないので、着丈が長すぎると大きなスーツに着られている風に映ってしまいますし、仕事柄、歩き回ることが多いので、絞りがきつめのテーパードパンツだと、裾が徐々に上がってきたりします。ダーバンのこのシルエットは英国調をほど良く取り入れながらも、ここずっとトレンドであったやや短めのイタリアンシルエットに近く、柔らかい着心地を兼ね備えていて、自分にぴったり合うスーツだなと感じております。

少し脱線しますが、「日本人は外国人に比べて、スーツを着ている歴史が短いから(スーツスタイルが)カッコわるい」と思っている方がいるのですが、あれは嘘ですからね。今のスーツの形ができたのは、140~150年前のちょうど明治維新の頃です。当時から日本人はスーツを着用していましたし、それ以前は、外国人もテールコートなどを着ていましたから。

―生地の色がまた素敵ですね。今日入って来られた時、「山本編集長、素敵!」と思いました。

山本編集長:ありがとうございます。言ってくれなかったじゃないですか(笑)。今回は茶系のスーツを誂えたいと思い、こちらのスタッフの方に相談しながら生地を探しました。トークイベントの冒頭、男の装いの三原色は、ネイビー、グレー、ブラウンだと申し上げましたが、ここ数年はずっとネイビーが人気でした。「次は、茶色のトレンドが来ますから!」という声を数えきれないほど耳にしましたが、ブラウンは全然来なかったですね。

そういうわけで茶色に関しては、“来る来る詐欺”って言っていたんですけれど、今年の春ごろから、ベージュのコットンスーツを着ている人を町中で見かけるようになり、この秋冬になって茶系のスーツを着ていらっしゃる方が増えてきたので、これは私も茶系のスーツを一着作らねば、と思って探していました。茶色って、なかなか皆さんも着づらかったのではないかと思います。フラットな茶色の生地だと、いかにもオジサンっぽくなってしまうんですよ。でもこの生地は、織り目のある立体的な表情を持った生地ですので、そうはならない。ダーバン独特のシャイニーな感じもあって、これは良い生地だなと思って選びました。

―とてもエレガントな印象です。

山本編集長:ダーバンのスーツって、非常にエレガントだと思います。私と同年代の方なら覚えていらっしゃると思うのですが、ブランドがスタートした頃、フランス俳優のアラン・ドロンがダーバンのCMに出ていて、「ダーバン、それは現代の男のエレガンスだ」というセリフを言っていました。他のブランドのスーツに比べて、ダーバンのスーツは非常にエレガンティシズムがあるのが特徴だと思います。この私が着ようともですね(笑)。

トレンドは追いかけすぎず、熟成してきた頃がちょうどいい


―ところで、最近のスーツスタイルのトレンドや傾向について教えてください。

山本編集長:先ほど少しクラシック回帰の話をしましたが、そういうところありますよね。どうですか?

志村:そうですね。2015年ごろからずっと英国調だと言われて、そろそろ変わるだろうと言われてはいるんですが、まだまだ続いていきそうな傾向はありますね。ただ来年くらいから、アメリカ的なトレンドが来そうな感じが…。

山本編集長:そうなんですよ。AMETORA(アメトラ)なんていう書籍が出たりして、アメリカのトレンドもちょっと来ていますよね。

志村:金ボタンが復活するような話も出ています。

山本編集長:いわゆるブレザーですよね。ただ、よく苦言を呈するのですが、トレンドにキャッチアップしすぎるのも考えものですからね。自分としては先取りだと思っていても、「なんで今さら、ブレザーなんか着てるんだ!?」とお洒落に疎い年上の方には言われてしまうかもしれません。ですので、頃合いを見極めたほうがいいと思います。

その意味では、今ちょうど英国調が熟成されてきたところなので、これからスーツを買うことを検討されている方は、英国調を買うのがいいと思います。こういったチェック柄(ハンガーに掛かったスーツを見せながら)も英国調の特徴ですね。ピークドラペル、ダブルブレスト、非常にクラシックですね。ダブルブレストも、先ほどのベストと同じで、もともと下着として着用されていたシャツの見える分量が減りますよね。ですから、非常にエレガントに見える、そういった特徴が英国調にはあると思います。

男の真価が問われるVゾーンは戦略的に演出せよ


―ここからは少し質問の方向性を変えて、個人的なファッション感についてお聞きしたいと思います。ビジネスのTPOに応じた戦略的なスタイリングなどありますか?

山本編集長:戦略的な着こなしをぜひお教えしたいと思います。スーツというのは、仕事のための道具であると私は思っています。いいスーツを着ると勇気が湧く、気持ちが上がるというのはありますが、「いい仕事をしていますよ」ということを相手に伝えるためにスーツがあると私は考えています。では、いつも凛々しい着こなしであればいいかというと、そうでもないんです。

Vゾーンについてお話しましょう。今日の私、わりとシックなタイをしているじゃないですか。例えば、このタイで重要なプレゼンテーションをしたとします。社長を相手に「新しい本を創刊させてください」と。ちょっとシックすぎて、押し出しが弱いですね。そこで、ここぞと言う時は、“パワータイ”と言われる赤系のタイを選ぶわけです。

その逆に、お詫びにいかなければならないシチュエーションがあったとしましょう。仮に、弊誌でダーバンのタイアップに誤植があったとします。赤系のタイで行ったとしたら、誠意が伝わらないどころか、場合によっては「なんと軽薄な!」とお叱りを受けるかもしれません。そうした時には、ネイビーのソリッドタイが一番いいですよね。「私は真摯にお詫びをしております」ということが相手の方に伝わります。

一方で、今日は、部下を叱責しなければならないという場合、ネイビーのソリッドタイだと、「怖いオジサンに怒られたなぁ。編集長、コワッ!」と部下には思われます。そういう時、少し気持ちの和らぐグリーン系のタイだったとしたら、「怒っているけど、もしかしたら許してもらえるかもしれない」という風に、イメージが全然変わってくるわけですよ。また一方で、赤系のパワータイで怒ったとしたら、「何をチャラいこと言ってるの、このオジサン」と、また逆効果に戻ってしまうのです。これが、Vゾーンが持つことの意味です。その時々のトレンドもありますけれど、色が持つことの意味、あるいはクラシック柄と言われる幾何学模様やペイズリー柄の持っている印象、そういったことを意識してスーツを着こなされると、仕事もうまくいくんじゃないかなと思います。

志村:そうすると、編集長はネクタイを何本か持ち歩いていらっしゃるんですか?

山本編集長:持ち歩いているというよりは、いつも忍ばせています。やっぱりお詫びのシチュエーションが、一番突然にやってくるんですよ。お詫び用のシックなネクタイは編集部に1本置いてあります。

志村:いつでも(お詫びに)行けるように、ですか?

山本編集長:はい、“忍ばせタイ”というタイトル付きで(笑)。これ、重要ですから。

志村:私の場合、個人的なファッション感というよりも仕事上の服装の話になるのですが、トレンドのアイテムをいち早く取り入れなくてはならないというのもあって、一番キツいのが、9月と3月の衣替えのシーズンですね。残暑が続く9月に冬物のスーツを着て、その逆に、まだ冬の寒さが強い3月に背抜きのスーツを着て、コットンのコートを羽織り、その格好で北海道に出張へ行かなくてはならないという(苦笑)。3月はちょうど切り替えの時期なので、ウールのコートはもう着れないんです。「ファッションは我慢だ」と先輩から教わりましたけれども、身で持って体験してみて、ああ、こういうことなんだろうなと思いましたね。

山本編集長:おっしゃる通り、ファッションは我慢というところもあって、クールビズっていうじゃないですか。あれは、相手にとって涼しそうに見えることが重要であって、自分が涼しいことはどうでもいいことなんですよ。例えば、ブルー系のネクタイをしていて、「今日は涼しそうですね」と相手に言われることが大事で、「暑いから、ネクタイ取っちゃえ」というのは、クールビズの本質ではないんです。皆さんも、今一度ぜひ見直してみてください。話は戻りますが、確かに展示会の時、スタッフの方はシーズンを先取りしたものをしっかり着こなしていらっしゃいますよね。その大変さ、お察しします。

志村:毎シーズン、展示会前になると、他のスタッフと(アイテムが)かぶらないように気をつけながら買い揃えています。

―最後に、ご来場いただいた皆様にメッセージをお願いします。

山本編集長:これを言うと驚かれる方が多いのですが、いいスーツを着こなすためのもうひとつの大事なポイントは、同じ店にずっと通い続けることなんですよ。芸能人の方には専属のスタイリスト、アメリカの大統領なら、イメージコンサルタントがいるかもしれませんが、皆さん、そういった専属スタッフがいますか?手を挙げられたらどうしようかと思いましたが、いらっしゃらないですよね。私にもそういう方はいません。

同じ店に通い続けていると、先シーズンにどんなスーツを買ったのか、どういった色が似合うのかといったことをスタッフの方が覚えてくださるんです。私のこのスーツを選んでくださったのは、KITTE 丸の内店の早乙女さんという優秀なスタッフで、非常に的確なスーツの提案をしてくださいました。そういう店員さんを見つけたら、同じ店にずっと通った方がいいです。自分のスーツ人生が、どんどん豊かなものになっていくと思いますので。ただ、間違ったお店にあたってしまうと、スーツ人生は台無しになりますから、正しいスーツを選んでくださる店に行くのがいいと思います。

志村:10月までクールビズと言われているので、ノーネクタイの方もいらっしゃるのかなという風に想像していたのですが、タイドアップされている方が非常に多くて驚きました。ぜひこのまま、スーツスタイル、ジャケットスタイルを楽しんでいただきたいなと思います。
ちなみに、ダーバンで初めて女性のオーダースーツを始めたのが、こちらの店舗(D’URBAN KITTE丸の内店)になります。女性の方もぜひ袖を通して、着心地をご体感いただければと思います。

イベント終了後は、和やかな雰囲気の中、お酒やフィンガーフードを囲んで歓談する人やショッピングを楽しむ人で賑わいを見せた。ファッションアドバイスを求める人もあり、山本編集長自らがスタイリングのコツを直々伝授する姿に魅入る人が多くあった。

男性の装いとは何たるかを熟知し、ウィットに富んだ語り口で来場客を魅了した山本編集長。対談者として登壇した志村マネージャーは、「(山本編集長の)ご著書を再読して臨んだが、じかにお話し、改めて学ばせていただくことが多かった」と話す。トークセッションでも話題に上った山本編集長の近著、「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」は、ビジネスマンが思わずポンと膝を叩く、スーツの着こなしの秘訣が詰まっている。男前を上げたい男性は、ぜひ手に取っていただきたい。


山本 晃弘 AERAスタイルマガジン編集長

1963年岡山県生まれ。1987年早稲田大学法学部卒業。MEN‘S CLUBやGQ JAPANなどの編集を手掛けたのち、2008年4月に朝日新聞出版の設立に参加。同年11月、編集長としてAERAスタイルマガジンを創刊。ニュース週刊誌AERAの別冊ファッション季刊誌として、ビジネスマンのリアルな声に応える誌面を作り続けている。現在はその見識を活かしたトークイベントやファッション系WEBへのインタビュー出演で、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活躍中。

志村 裕之 ダーバン企画商品部ユニットマネージャー

2000年株式会社ダーバン(現・株式会社レナウン)入社。約2年間の店頭販売を経て、2002年より本社勤務となり、ビジネス、カジュアルブランドのマーチャンダイザーやディストリビューターを担当。入社以来、メンズブランド一筋で、ビジネスのMDは10年の経験を持つ。2013年よりダーバンのMDとなり、2017年より企画商品部ユニットマネージャーを担う。

岸 由利子(司会)ライター・翻訳家・画家

英国ロンドン・セントラルセントーマーチン美術大学卒業。在学中、スーツの聖地・サヴィル・ロウ1番地「ギーブス&ホークス」で2年半に渡るテーラリング修行を伝授。MALKOMALKAのデザイナーを経て、2008年より執筆業に転身。ファッション、腕時計、医療、福祉、スポーツなどの分野を中心に取材、執筆。画家としては、レストランやバーなどの壁画を中心に活躍。近年はミュージシャンへの衣装デザインやプロダクトデザインも手掛ける。


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