D'URBAN×Forbes JAPAN SPECIAL EVENT 前編 世界のトップリーダーに学ぶスーツの着こなし術

Vol.29 Forbes JAPAN  PHOTO:SEIJI SAWADA , TEXT:YURIKO KISHI


11月30日(金)、Forbes JAPAN谷本有香副編集長とファッションディレクター森岡弘氏によるトークセッションがD’URBAN KITTE丸の内店で開催された。トニー・ブレア(元英首相)やハワード・シュルツ(スターバックス元会長兼CEO)をはじめ3000人を超える世界のVIPにインタビューした実績を持つ谷本氏。メンズファッション界の最前線を20年以上走り続け、俳優やミュージシャン、プロゴルファー、プロ野球選手などのスタイリングをはじめ、政治家や企業家のイメージコンサルティングや航空会社の制服デザインなど、ジャンルの垣根を超えためざましい活躍を遂げている森岡氏。「世界のトップリーダー達から学ぶスーツの着こなし術」をテーマに、二人が熱く語り合った濃密な時間を前編・後編の全2回にわたってご紹介する。

「服を着こなせない男性は、仕事ができない」と思われるのが今の時代


男性客が多いと思いきや、仕事帰りとおぼしきスーツ姿の女性客が続々と訪れ、店内はぐっと華やいだムードに包まれた。男女混合の来場者でまたたく間にシートは満席御礼となり、立ち見の方が続出する中、トークセッションはスタート。谷本副編集長が司会・進行とファシリテーターを兼ねる形で来場者に挨拶を述べた。

「これまで数多くの世界のトップリーダーの方にお会いしてきて思ったのは、日本のリーダーのファッションというひとつのスキルを上げたいということです。これは、私の中でいわゆるライフワークのひとつでもあります。男性のスーツについてはもちろんのことながら、今日は女性のファッションについても取り上げていきたいと思います」

この日、谷本副編集長が着用していたのは、D’URBAN KITTE丸の内店で誂えた女性向けのパーソナルオーダースーツ。ダーバンならではの構築的なメンズスーツの仕立てをベースにしたシルエット、糸1本から日本で作り上げた上質な素材、そしてこだわり抜かれた女性らしさと気品が同居するセンスとフィッティング。それらをあわせ持つネイビーの一着が、谷本副編集長の凛とした美しさをよりいっそう引き立てていた。

さらに、森岡氏が続いて登壇。ファッションというフィルターを通して多岐に活躍する名手は、冒頭、来場者に向けてこう語った。 「僕が婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社した頃は、“服にうつつを抜かしているくらいなら、もっと営業して来い!”と言われるような時代でした。着飾ることは、どちらかと言うと、仕事ができない男性に見られていたんですね。ところが今の時代は真逆で、“服を着こなせない男性は仕事ができない”と思われるふしがあります。ただ勘違いしてはならないのは、服を着こなすことは、“いい仕事をしていますよ”と自己プレゼンをするための、いわばビジネススキルのひとつであって、お洒落をすることではありません。正直言うと、僕は日本の方たちのファッション感度を上げたいと思っています。つまるところ、皆さんが服の力を借りて、さらにステージアップしていくこと。それこそが理想形です」

男を一番“格上げ”してくれるスーツを知り、己を知れ


谷本副編集長:それでは早速、核心に迫っていきたいと思います。男性のスーツの場合、女性に比べてルールがある程度決められていますよね。その中で、仕事ができる人、あるいは仕事に対する意識が高い人に見せるためには、どんな点に気をつけたらいいですか?

森岡氏:一番大事なのは、サイズ感。これを間違ってしまうと、だらしなく見えます。まず前提として、スーツにスポーツアイテムのような動きやすさを求めてはならないということ。どれだけ高価なスーツでも、残念ながら、ジャージのような着心地はないんですよ。ただし、スーツは男を一番格上げしてくれる特別な服であり、みんなのものです。自分の体にちゃんと合ったスーツを着ると、男性的なカッコよさや佇まいは間違いなく強調されます。

極端にいうと、スーツとは“補正服”。なで肩の人が、肩パッドを入れて少しいかり肩にすると、やはり端正に見えますし、細身の方も逆三角形体型に見えます。スーツはむしろ着心地が悪い服という認識の中で、着心地の良さを探して欲しいと思います。ジャストサイズは重要ですが、タイトなスーツを着ることがジャストサイズではありません。詳しくは後で説明しますが、むしろタイトなスーツを着ると、悪目立ちしますから、仕事上での着用はあまりおすすめしません。

森岡氏:次に大事なのは、色使いですね。基本的には、濃色系の方が仕事に対する高い意識を持っている人に見えます。同じネイビーでも、深いネイビーとブルーに近いネイビーなら前者の方が好ましいということですね。薄めの色合いや変に光沢のある素材だと、ビジネスからは徐々に離れていく感じです。後者はカッコいいかもしれませんが、飛び道具的なイメージがあるので、着る時と場所を考えた方がいいとは思いますが、許される場にそういったスーツを着ていくと、「この人はちゃんと分かった上で、使い分けているんだな」と思われますし、(着こなしの幅に)奥行きが出てきますよね。

あともう一つは、ネクタイをちゃんと結べること。驚かれるかもしれませんが、多くの男性は意外と結べていないんですよ。シャツのボタンが半分くらい結び目から見えるなど、だらしなく結んでいたり、フィニッシュの仕方がルーズだったり。人前に出る時は、ちゃんとボタンを留めて、ネクタイをピタッとセンターに合わせる。ここがずれているだけでも、やっぱりだらしなく見えますから。逆に整っていると、まず仕事に対する意識の高い人には見えます。

谷本副編集長:業界や所属する部署によっても、スーツの選び方や着こなしはまったく変わってきますよね。その辺りについてはいかがでしょうか?

森岡:スーツを選ぶ前に、まずご自分の職種を前提として、どう見られたいかということを明確にしておいた方がいいと思います。例えば、ウィンドウペン(格子柄)のスーツはカッコいいかもしれませんが、基本的にドレスコードとして許されるストライプ柄とは違って、どちらかと言うとカジュアルな柄なので遊び感は否めません。クリエイティブ系の方には適していると思いますが、お堅い仕事に就かれている方が着ると、少し度を過ぎて見えるので、やはりネイビーの無地が一番ですね。

それでもチェック柄がいいという方は、無地に近い同系色で、なおかつ細かくて小さいものを選ぶといいと思います。見た目には無地に見えますし、サイズ感が合っていて、ちゃんとした着こなしができていれば、「(チェック柄でも)この人ならアリ」と認識されると思います。普段からきちんと“着分け”ができている人なら、時と場合によっては、少しくらいドレスコードの掟破りをしても許されるということですね。男の着こなしの遊び心は、グレーゾーンですから。こうやって、奥行きを広げていくのは、実はすごく楽しい行為です。ただ悲しいかな、服心のない人がグレーゾーンで遊ぶと間違ってしまうので注意が必要ですが。

谷本副編集長:こんな人にはこういったスーツが似合うなど、個人に落とし込んでいく時のポイントはありますか?

森岡氏:会社のトップに立つような方が、手に入れやすい価格のスーツを着るのは、できれば避けていただきたいです。昇進して役職が上がると、スーツのランクも上げていく。これ、変な言い方ですけれども、海外では普通に行われていることで、名刺の肩書きが変わっていく中で、スーツもよりいいものに変えていくという考えがベースとしてあります。でも残念ながら、日本人は総じてこういった意識が乏しいんですね。生地が変わり、仕立てが変わると、その人の佇まいや発言力も断然変わってきます。クオリティの高いものとそれなりのものをちょっと意識して見比べれば、その違いはやはり一目瞭然ですから。

だから男の服は面白い


谷本副編集長:職種やポジションのドレスコードと流行トレンド。このバランスは、どんな風に取っていけばいいのでしょうか?

森岡:センシティブでシビアな今の時代は、やはりかっちり見えるものが好ましいと思います。タイトということではなく、肩の位置や袖の長さをちゃんと合わせるなど、どちらかと言うとイギリス的なちょっと堅めの方が、柔らかみのあるイタリアンシルエットよりは、仕事をする意識の高い人に見えるのではないかと思います。着こなし的な流行が多いという意味では、ネクタイとスーツは、あまり色を変えずに、濃色系でまとめた方が今っぽく見えるかもしれませんね。

谷本副編集長:今の自分に一番似合うスーツを選ぶ時、例えば、店頭でスタッフの方にアドバイスを乞うのもいいかもしれませんが、自分で選び取るには、どのように学んでいけばいいのでしょうか?

森岡:先生じゃないですけれど、「この人って、いつもちゃんとした着こなしをしているな」と思う人を何人か見つけて、観察すること。毎日のように見ていると、色合わせなど、その人のこだわりみたいなものが見え隠れしてきて、意外と気づきがあります。そこが見えてきたら、自分にフィードバックしてみる。なおかつ、ファッションブランドって、やっぱり最新の提案をしていますから意識して見てみてください。「今、こういう合わせ方があるんだな」「こんな色合わせがいいんだな」と気づけるようになると思います。

あとは、ご自分の“マイカラー”を持つことをおすすめします。男性の場合は、ネイビーやグレーなどの定番色でいいと思います。それをベースに何を足せば、どんなハーモニーが生まれるかということを意識しておくと、奥行きが作りやすくなると思います。

男性は、アイテム数も含めて守備範囲が狭いんですよね。スーツ、シャツ、タイ。足しても、ベルト、靴、チーフ。そう考えると、つまらないという風に思うかもしれませんが、逆にいうと、みんなが同じアイテムを使っているからこそ、実力差がすごく出るんですよ。「どうしてこの人だけ輝いて見えるんだろう?」となるのは、やっぱり着こなしや色合わせとか、そういったところで差がついているからこそ。男性の服は全然つまらなくなくて、僕は面白いと思います。意識をして見ていくと、今まで気づかなかった色んなことが見えてくると思いますね。

仕事意識の高い女性ほど、男性の服を知っている


Forbes JAPANをけん引する谷本副編集長いわく、仕事の99%はエグゼクティブクラスの男性と会うこと。それゆえ、仕事で会う方と印象がかぶらないように、ネイビーなど男性の定番色はあえて避け、プロフェッショナルとしてのシャープさやクールさにより重きを置いた白などの色を選ぶことがほとんどだったという。

だがその一方で、世界的なカンファレンスやイベントで出会う女性の多くが仕立ての良いネイビースーツを颯爽と着こなす姿を見て、自分も着てみたいと秘かに憧れを感じていた谷本副編集長にとって、今回、ダ―バンで誂えたネイビースーツは、ある意味、“ドリームスーツ”、“イットスーツ”。オーダーでフィッティングすることで、自分に合う着丈やパンツのシルエットなど、スーツについて多くを学んだと話す。中盤は、女性役員からファッションについて相談されることも多い谷本副編集長のストレートな質問からトークが展開した。

谷本副編集長:今日は女性の方がたくさんお越しくださっていますが、女性についてはいかがでしょうか? 私のまわりでも仕事で着用する服選びに悩んでいらっしゃる女性のリーダーが多くいます。男性のように、グレーやネイビーのスーツを着ればいいのか、あるいは、女性らしさを出すという意味で白やピンクなどを取り入れた着こなしをすればいいのか。働く女性は、どんな風にすればよいのでしょうか?

森岡:僕がよくお手伝いする女性社長が何人かいらっしゃいます。その一人の方が常々こうおっしゃるんですね。「着れる服、着たい服がない」と。ないというのは、服はいっぱいあるけれど、お洒落に見せるためではなく、仕事に対する意識が高い女性に見える服、社長としての自分を考えた時に、選べる服がないということです。

谷本副編集長:自由度が上がれば上がるほど難しくなるのが、女性のファッションですよね。

森岡:よく相談を受けるのですが、「まずは、男性の服を理解してください」とお伝えしています。ドレスコードがない女性に対し、男性の場合は、ある程度明確なドレスコードがありますよね。スーツはネイビーかグレーが基本で、靴とベルトは同じ色と素材で揃えるなど、女性もそういった男性ならではのルールのベースを理解して、ご自分にフィードバックしてみることをおすすめします。男性のルールをベースに着ていくと、「あ、この人分かってるな」ということが男性に伝わっていくんですよね。

例えば、チェック柄は基本的にカジュアルな柄で、大きめだと派手に見えるということを知っていると、ぶら下がりで動くピアスより動かない方がちゃんとして見えるだろう、つま先が尖ったピンヒールだとやりすぎだな、だったら5センチくらいの普通のハイヒールにしておこうという具合に、“押して引いて、合わせたらゼロ”みたいな感じの着こなしが出来上がります。

ルールを知っていると、加減が調整できるようになるということ。これは、ビジネスシーンでは、非常に重要です。昇進して管理職に就いた時など、今までと違う服が急遽必要になったとしても、普段から意識して見ていると、気づきが生まれているので、あまり間違いをしないと思いますよね。その一方、女性は良い意味でルールがないので、オーダースーツを作る時など、仕立てやフォルムでちゃんとした感じを演出できていれば、色はベージュやライトグレーだっていいと思います。たぶん素敵ですよね。

トークセッション後半では、名だたる世界のトップリーダー達に接してきた谷本副編集長ならではこその鋭い視点と、豊富な経験・知識、そして類まれなる審美眼に裏打ちされた森岡氏のファッション哲学がさらにヒートアップ。来場者からのQ&Aコーナーでは、ビジネスパーソンにとって思わずハッとする気づきが満載。どうぞお見逃しなく。


谷本有香 Forbes JAPAN副編集長 チーフイベントプロデューサー 経済ジャーナリスト

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。トニー・ブレア(元英首相)、ハワード・シュルツ(スターバックス元会長兼CEO)をはじめ3000人を超える世界のVIPにインタビューした実績を持つ。2016年2月よりForbes JAPAN副編集長 兼WEB編集長。同年4月より跡見学園女子大学兼任講師に就任。ロイヤルハウジング株式会社上席執行役員も務める。

森岡弘 ファッションディレクター

1958年、大阪府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社後、男性ファッション誌「MEN’S CLUB」にてエディターとして活躍後、独立。1996年に株式会社グローブを設立し、ファッションを中心に活動の幅を広げ、現在は俳優やミュージシャン、アスリート、文化人などのスタイリングを行う他、イベントやショップのコスチューム、企業のユニフォームデザインなども手掛けている。


SPECIAL INTERVIEW ARCHIVES