京都伝統の西陣織染職人が紡ぐ高貴な色

Vol.33 京都染工所   西陣織物糸染加工 PHOTO:KEITA NAKADA , TEXT:RIE YOKOYAMA


スーツスタイルの最後の味付けとなる1本のネクタイ。英国王室御用達として名を馳せたビスポークテーラー、ハーディ・エイミスが「ネクタイはそれを締めている人よりも一歩先に部屋に入ってくる」と説いたように、これひとつで男の印象が激変するアイテム、と言っても過言でない。ダーバンのものづくりは、ブランド創設以来、熟練の職人達の愛と誇り、確かな技術力によって成り立っている。西陣の染色職人、丹後の織物職人、京都や十日町の縫製職人...。日本各地、長い旅を経て完成する、1本のシルクタイの軌跡を辿る。

01.知識と勘を有する、西陣の名匠


京都が誇る伝統工芸、西陣織。その繊細な染色技術を代々受け継いできたのが、京都染工所を営む、高松大嗣氏ご夫妻。工房が佇む西陣地区は、古くから地下水脈が豊富で名水に恵まれた土地。不純物の少ない軟水のため、染色に適しているのだという。

高松氏の類まれな染色技術は保有する資格からも伺える。「糸浸染作業一級技能士」の国家資格は、受験資格の7年以上の実務経験を持ってしても、合格率30%に足らないことも多く、染色、繊維、色彩、薬剤、安全に至るまでの精巧な“知識”を必要とされる。さらに「西陣織伝統工芸士」として勘だけで染料の調合を試される“勘染め”試験もパス。“知識と勘”。その両方を有しているという証なのだ。

02.風合いを高める、熟練の感覚


絹糸と聞き、頭に浮かぶ、あの美しい光沢としなやかな手触り。
「実は生糸はまだゴワゴワしていて、シルク特有のツヤがない状態。時間をかけて“精練(せいれん)”することで、まろやかな艶が生まれるんです」精練とは、石鹸で煮出し、糸表面に付着したセシリン等の不純物を取り除く作業のこと。

糸が白く輝いたら、染めの作業へ。ここでは“綛(かせ)染め”という糸に優しい昔ながらの手法を大事にしている。リズミカルに染料を混ぜ合わせる姿に、目を奪われる。染料調合データを読み取る機械を使用するも、糸の状態に合わせて微調整。どんなに機械化が進んでも、やはり“長年の勘”が頼りとなる。
「シルクの染色は、非常にデリケート。糸本来のもつ色の微差や、その日の気温によっても、染まり方が変化する。いわば“生き物”のようなものなんです」30年の経験を持ってしても、計り知れないのだという。

染料を配合し、沸騰した西陣の地下水が、糸をみるみる染めていく。染まり具合を確認しては、また染めての繰り返し。蒸気に包まれた工場内は、気温37度・湿度56%へと上昇。大量の汗が高松さんの頬を伝っていく。

03.寸分の狂いのない、緻密な色合わせ


瑠璃色、藍色、群青色...。サンプルはネイビーだけでも、優に200色を超える。
色見本と染め上がった糸を比べる、“色合わせ”の作業。肉眼で確認するだけでなく、色にズレがないか、太陽光と蛍光灯の下でも丹念にチェックを重ねる。「店内と店外で見たときに、同じ色に見えるまで何度も染めていくんです」その緻密さが、メイド・イン・ジャパンの完成度の高さを物語る。有名ブランドもこぞって依頼すると言うのが、納得だ。

色合わせをクリアしたら、仕上げに“オイリング”を施して“自然乾燥”。
「糸のもたつきを正してオイリングすると、ハリのある何とも言えない風合いになるんです。絹成りと言って、ネクタイを締めた時にキュッと整うあの感覚。乾燥は機械を使わず、染め場の熱を利用して一晩かけてゆっくりと自然乾燥する」これも、糸に静電気が起きにくいなどの利点を考えてのこと。こうして丁寧に仕上げられた1本の絹糸は、月並みだけど、「ただただ美しい」の一言。男たちの胸元に、高貴な輝きをもたらしてくれるに違いない。


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